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サイコロ版プロ様について考えてみた

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デュエルは基本的に室内のゲームではあるが、十代自身は外で体を動かすのが好きだったので、よく森やら山やらを探検していた。彼のいる島は小さいながらも森あり火山あり海ありと多彩な地形を備えていたので、彼の好奇心をかき立てるには充分過ぎる程だったのだ。
 その日は森をターゲットにして、誰にも行き先を告げずにたった一人の小冒険。傾いた太陽を見上げると一つ伸びをする。
「うーん……そろそろ帰った方がいいかな」
 辺りはまだ明るかったけど、夕食前には戻っておきたい。帰り道へと歩みを進めようとした時、遠くから無機質な音が聞こえてきた。
「ん……?」
 次第に大きくなっていく音は対象物が近づいている事を示していて。耳を塞ぐ程の爆音がヘリコプターのものだと、十代が気付いた時には機体が間近に迫っていた。
 なんだこれ、と叫んだ声もプロペラにかき消され、激しい風が赤いジャケットをはためかせた。辺り一帯をなぎ倒すように降り立ったヘリコプター出てきたのは一人の青年。背は十代より頭二つは高そうだ。
 グレーのスーツをきっちり着込んだ彼は銀髪に蒼眼の美形で、見るからにガイジンといった雰囲気。薄い唇から発せられたのは、柔らかな声だ。
「やあ、キミ」
 十代はしばらくぽかんとして、ようやく彼の視線がこちらを向いている事に気付いた。
「あ……と、オレ?」
 恐る恐る自分自身を指差せば、ああ、と軽快な言葉が返ってくる。気安げな口調で、青年は十代に話しかけた。
「ここにはデュエルアカデミアがあるんだよね」
「そう、だけど」
「ありがとう」
 にっこり笑うと、一気に場が華やぐ。片手がすっと上がると、ヘリコプターが空へと舞い上がっていった。巻き上がる風をものともせず、彼は十代の方へ歩きながら言う。
「良かったら案内してくれないかな」
「別にいいけど」
 十代は半眼で闖入者を見た。唐突にやってきた人間に関していい思い出を彼はあまり持っていない。
「アンタ、DAに何の用があるんだ」
 鋭い視線を受けて、青年はおおげさに肩をすくめる。顔は笑ったままだから、何を考えているかは分からない。
「ちょっとね」
 そこで言葉を切ると、十代の方を向いて目を細める。
「多分キミにも関係がある事だと思うよ」
「……?」
「まァ、後のお楽しみさ」
 話はこれまで、と笑顔のまま言い切ると、青年は一方的に事態を進める。
「迷惑とは思うが、これも何かの縁だ。よろしく」
 差し出された手を十代は咄嗟に握った。自分のものより一回り大きなそれは、少し骨ばってひんやりとしていた。



 しばらく青年と話して、十代は変なガイジンを少し見直した。あちこちの国を回った事があるという彼の話は面白かったし、見るからに年下である自分を馬鹿にしない。何より趣味が一緒だ。
「へー、アンタもデュエルするのか」
「ああ」
「じゃあ、ここへもデュエルしに来たんだな」
 だったらさっき言ってくれれば良かったのに、と十代がむくれると、くすっと笑い声がする。
「こんな所へ来る人間の目的なんて限られているだろう」
「そうだけどさ。……あ、そうだ。だったら今すぐデュエルしようぜ。デッキ持ってるんだろ」
 デッキケースからカードの束を取り出せば、即座に返答がくる。
「それは出来ないな」
「なんでだよ」
 頬を膨らませて必死に不満を訴えても、青年の態度に変化はない。蒼色の瞳は硬質の輝きで、揺るぎない意思を示しているように見えた。
「簡単に手の内は見せられない。それに――」
「それに?」
「時間切れだ」
「え」
 青年はふと顔を上げた。その視線の先を十代が辿っていけば、特徴的な校舎が目に入る。
「ここから先は案内が無くても平気そうだ。連れてきてくれてありがとう」
「あ、ああ」
 いつの間にここまで歩いてきたのか。茫然とする少年の傍らで、青年は独り言のように呟く。
「ここで出会ったのも運命か。対戦する時が楽しみだよ」
「ああ。……って」
 まるで次に会う事が分かっているかのような台詞を十代が問いただそうとした時には、相手はすでに背を向けていた。気取った言葉だけが残される。
「See You,Judai Yuki」
「お前、何でオレの名前――」
 知ってんだ、と問いかけを完成させることもなく、十代は茫然と立ちすくんだ。頭の中が疑問符でいっぱいになって、整理するにも時間が必要だった。
「アニキ!」
 突然呼びかけられて、十代の意識は強制的にそちらを向く。小柄な体に跳ね上がった水色の頭は弟分である翔のものだ。
「翔」
 翔は十代の所まで駆けてくると、不思議そうに問いかける。この時間は食堂で腹減ったと騒ぐのが十代の日常だったから。
「どうしたんスか。もうすぐ晩ご飯の時間っスよ」
「いや、ちょっとな……」
「変なアニキ」
 ぼうっとした様子の十代を
「そういやアニキ、さっきすごい有名人に会ったんスよ」
「誰だ?」
「それがなんと! あのエド・フェニックスっス!!」
 大げさに腕を広げて、もったい付けた翔の言葉を聞いて十代は首を傾げた。どうも芸能人だとかそういう類には弱い。
「……えど、ふぇにくすす? 誰だそれ」
「知らないんスか!?」
「ああ」
「これだからアニキは……」
「知らねーもんは知らねーよ」
 むう、とむくれた十代に説明しようと、翔は手元のPDAを操りながら言う。
「デビューしてから10年間負けなしのプロデュエリスト! 最年少リーグ優勝記録も持ってる世界最強のデュエリストっスよ!」
 インタビュー記事に載った写真を見て、十代は目を見開いた。そこにあったのは先程まで道案内をしていた青年の笑顔。
「あーーーーー!」



 十代が声を上げたのと。唐突にふっと笑みを零したエドに声がかけられる。
「どうかしましたかな」
「いえ……ここに来るまでに少々面白い出来事がありまして」
 計算しつくされた笑顔を見て、校長も愛想笑いを返す。机に置かれた書類を押しやると、ゆっくりと手を組んで言った。
「では、臨時講師の件よろしくお願いしますね」
「はい」
 柔らかな声を響かせて、エドは頷いた。窓から外を見れば小さな人影が2つ駆けていく。その内に茶色の頭を見つけて、口元を緩ませた。