Geschlossene Gesellschaft
「兄さん」
「ん?」
「あなたがそこにいてくれて嬉しいと思う。あなたがそうしていてくれるだけでしあわせだと思う。あなたが、」
「ドイツ?おーい?」
「あなたが、そうやって呼んでくれるだけで充分なんじゃないかと、思うんだ時どき、でも、」
「…でも?」
弟が、無言でぎゅうと抱きついてきた。
週末。ビールとつまみと並んで座ったソファと目の前のテレビの歓声。サッカーの試合。勝ってる贔屓のチームの攻撃。
弟が、無言でぎゅうと抱きついてきた。
「ドイツ?どうしたヴェスト、」
首を振る。
なんでもないと小さな声で言う弟の手から汗を、かいた大ぶりのジョッキを取り上げてテーブルの上に置く。(自分の分は手放さずに)
「おー…い、」
あっちいぞ。短い春が終わって季節はもう夏に片足を掛けている。『あたたかな』が自分たちの体温で瞬く間に暑くなる。胸に埋められた顔きんいろの旋毛、ジョッキの、代わりに握られた自分のシャツの裾、
「 」
「ん?」
わぁああっ、と、テレビから一層大きな歓声。ガッツボーズを取ろうとした時に言われて聞き逃した弟の何か。聞き返したら「いい、なんでもない、」と少し泣きそうなこえ。
「ん、」
コイツがそう言うんだから、多分それでいいんだろう。
俺は弟を、抱えたのとは逆の手を傾けて冷たくて辛いそれをゴクゴクと飲み干した。ん。うまい。もう一杯。
俺は立つけどお前は?ちいさくちいさく、胸で息をしているのに声を掛けたら頷いたのでそのまま立ち上がって台所の冷蔵庫へ行った。小さな瓶を、二つ持って元いた場所へ。
「夏だなあ」
煌々と、室内は明るいけれど。
暮れていく窓の外が青色だ。
「お前は馬鹿だなあ、」
また歓声。
戻ってみればゴール前、おそらく程なく3点目。
座り直しながら俺は弟に同情した。
慰めてやる気なんてこれっぽっちもなかったけど。
中継はこんなに面白いのに。
ビールはこんなに美味いのに、
■嘘つきドイツと壊れたプロイセン
『俺のことが好きだなんて、』。
タイトルに深い意味はありません。ええ、ありません。
第一回普独を思い出そうキャンペーン。
今日は、フォーム投稿をしくじって真っ白にしてしまったので記念にもう一つ考えてみました。
作品名:Geschlossene Gesellschaft 作家名:榊@スパークG51b