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榊@スパークG51b
榊@スパークG51b
novelistID. 7889
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Beautiful Life

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『いいか?俺はこれからひとつ嘘をつく』
騙されるなよ?と、そのひとが言った。

「ヴェスト、」
「ん?」
プロイセンに呼びとめられてドイツは足を止めた。
兄は来い来い、と手招きをしている。なんだろうと近付くと鼻先にちゅ、とキスをされた。
「兄さん…」
「んー?」
くすくすと、機嫌の好さそうな小さな音。
自分は部屋の掃除で忙しいというのに(今だって、両手に紐で括ってひとつにしようとしている雑誌を数冊抱えている)
自分はソファで悠々と、携帯電話弄っているだけのくせに。
ドイツがじとっとした目で見ると兄はケセケセと笑って手伝おうかと言った。ドイツはいいと首を振った。どうせ、手伝ってもらっても邪魔されるばかりで捗らない。(この月のカレンダーの週末何度分、それで駄目にしてしまったことだろう!)ドイツはまったく、とため息をついてそのくちびるを何かの遊びのように己に触れさせてくる兄から離れてビニールテープのあるキッチンの脇へと足を運んだ。手伝おうか?くすくす、くすくすとまた兄が言った。
「結構だ」
「そりゃ結構なことです、ってか?」
「断る。必要ない。ひとりで充分だ。兄さんはそこで遊んでいてくれ」
ケセセセ、と兄の笑うおと。ドイツは手早くそれを括ってしまうと庭へ出て、資源用のコンテナにそれを入れてしまった。一人でいたときの、5倍くらいの速さでそこが埋まっていく。多くは園芸と、スポーツ、犬と科学の月刊誌。隣のビン缶用のそれの中身はビールにワイン、ドイツは飲まない清涼飲料の容器で満たされていた。
「……」
ドイツはそれらを眺めるともなし眺めて苦笑した。
ゴミとは人の生活の痕跡であると。少し気取って言うのならそれは残滓であったり気配であったりするのだろう。要するに、それは証でありドイツの家のそこにはもう、彼だけのためのコンテナなどひとつもなかった。
ああ、そろそろ回収してもらわなくては。
ドイツはずしりと重いそれを引いて玄関の先へと運んだ。
リビングへ戻ると兄の姿はもうそこにはなく、台所から鼻歌が聞こえていた。夕飯の支度をしてくれているのか、それともコーヒーを淹れているのか。ソファに座ると足元へやってきたきんいろの犬の頭を撫でてドイツは懐かしいリズムに合わせて上下する兄の声を聞いていた。

「ほれ」
「ん、」
程なくグラスを二つ、片手に兄が戻ってきた。
「Einspaennerか」
「ん?キライだったか?」
「いや、」
ごくろーさん、の一言と一緒に額にキスが。そして手渡される冷たくて暖かいグラス。白と黒の、ドイツは小さなころからこれが好きで良くねだっては作ってもらったものであるとそっと、手にした耐熱容器に頬を動かした。
「嬉しいときには笑えよ」
「… 笑っている」
「まだまだ、もっといっぱい」
「これ以上か?」
「当たり前だ」
プロイセンがぷくーと頬を膨らませてドイツに言った。不満げに聞こえて、でも窘めるような声だった。
もう子供ではないのだがなあとドイツは思う。兄は、ちいさな頃から本当にそういうところに過保護でいけないと思う。
そうか、と返事をしてドイツはもう少し、頬に力を入れた。ぎこちなく上がった筋肉を、「ったく…」とため息交じりに撫でられる。
「わらえ」
「笑ってる」
「わーらえ、」
「だから、」
笑っている、と言おうとした口をふさがれた。ぬるり、と絡んだ舌からは甘くないホイップクリームの味(その舌が、触れるたびに己のそこに塗りこめられるような油脂の感触が何とも言えず気持ち悪かった)
顔を、顰めると、
「…そういう顔ばっか出来るようになってなあ、」
少しさびしげに、兄の声。
「あんたと違って甘党なんだ、俺は」
「知ってる」
「それでも俺の分に砂糖をくれるあんたが好きだよ」
「奇遇だな、俺も好きだよ」
ケセセッ、と兄が笑った。そんなこと知っている。アンタは自分が大好きだ。ドイツはますます顔を顰めて、そうだな奇遇だな、と言った。

うそつき、うそつき。
そのまま覆いかぶさって、ちゃんとしたキスにしようとする兄を押し返してドイツはグラスの中身に口付けた。
(…あまい、)
砂糖の入り過ぎたホイップ。
もうどれだけ、加えたらいいかなんて忘れてしまった味見のための舌の、感覚さえ失ってしまった兄の証拠。眉間の、皺がそれで取れるはずの甘味に少し泣きたいような気になってドイツはごそりとソファの上で身じろいだ。
キスを拒まれた兄はちぇーっと、言いつつそれを気にするでもなく嗅覚だけで挽いた豆の(しかしおそろしく美味である)苦みをズルズルと啜っている。
「なあおいヴェスト」
「なんだ」
話題は今日の夕飯へ。
買い出しの話になって、ああ、そうだもうアレがねえ買い足さねえとな、など言うプロイセンの横でドイツは黙ってコーヒーを傾けていた。
(――辛みと、苦み、)
もうそれしか残っていない兄は、けれどまたホットケーキミックスが欲しいなとドイツに言っている。
(うそつき、)
(うそつき、)
ドイツはそうだな、と相槌を打った。
今日の夕飯はピザ、明日の朝食は自分用にパンケーキ、兄のためにホットケーキ。
ああ上に載せるアイスクリームも買わなければ。
頭にメモをしてドイツは横に覆いかぶさった。
「…甘いか?」
「甘ぇ、」
「Luegner,」

いつか、このひとが言った。
あいしてるよ、と、俺を信じるなと言ったその口で。
だからドイツは騙されない。


■たとえ彼が、どんなに削れてしまっても。
認めない。それが自分のためであるなんて。
とてもとても、お互いを好き合っているどこか、だれかの話。
いっこまえのと、同じ二人。
※A umlautとU umlautを其々aeとueで書いています。
作品名:Beautiful Life 作家名:榊@スパークG51b