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灰空よ、愛を謳え

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君には敵わないな。
だって、こんなにも――



【灰空よ、愛を謳え】



冬。
辺りは一面の白、白、白。
人一倍、この季節に深く抱かれて、僕は心底嫌気が差していた。

もう見飽きたんだ、こんなもの。

寒いだけで、凍らせるだけで、何も生み出さない銀世界なんて。
しかも、それに似て僕は色が白くて、髪まで銀なのだから性質が悪いったらない。

だから――僕は、僕が嫌い。

そう、なのだけど。
持って生まれたそれらを大切にしろ、と言ってくれた人が居る。

酷く寒い、こんな雪の降る日に、わざわざ外に出たいなんて言い出す不思議な人。
今、僕の隣に居る、周りや僕とまったく違う色を纏う人。

耀くん。

真っ二つに割れたこの世界で、僕の傍に付いてくれた、数少ない人の一人。

サクサクとわざと足音をたてながら、厚く積もったパウダースノウを踏み鳴らして進む彼は、とても楽しそうに見える。
そのうち、耀くんは雪原に雪兎を見つけて、そっと近付くと、一気に飛び掛ってそれを捕まえた。
その時の耀くんの姿は、子供っぽくもあって、それでいて何かしらの肉食獣の狩りも想像させた。

四肢をばたつかせて暴れる雪兎を抱えて、耀くんは僕に振り返ると、笑って「捕まえたあるよ」なんて言ってきた。
よかったね、って返事をしてあげると、可愛いあるなぁとか言いながら雪兎を撫でていた。
耀くんが撫でていると、不思議と雪兎は大人しくなって、むしろその腕の中が居心地がよくなったらしく、すっぽりと埋もれていた。

そんな耀くんに近付いて、僕も雪兎を見る。
真っ白な体。
僕の嫌いな雪の色。
真っ赤な目。
……血。血の色だ。

そう認識した瞬間、今朝見た嫌な夢を思い出す。
あぁ嫌だ。せっかく忘れてたのに。

「…どうしたあるか?イヴァン」
「え……何が?」
「だって、嫌そうな顔してるあるよ」

そう言うと、ずい、と耀くんが僕の顔を覗き込んでくる。
う……近い。
こういう時、耀くんは決まって――

「お前……また何か黙ってるあるね?」

って言って、僕の考えてる事をなんとなく見抜いてしまう。
ドキッとはするけど、悪い気はしない。
そんな所も含めて、耀くんが大好きだからね。

僕は、嫌な気分の元凶、今朝見た夢の事を話し出した。

「うん……あのね、嫌な夢を……見たんだ」

耀くんから相槌は来ない。
けれど、これはいつもの事。
雪兎を片手に、コートに付いた雪を払いながら立ち上がる彼は、静かに僕の話を聞いてくれているんだ。

「僕の傍から……誰も居なくなる夢。ひとり、ふたり……って家から出て行っちゃって…。エドァルドも、ライヴィスも、トーリスも……姉さんも、ナターリヤも…。それに」

ちら、と隣を見る。

「……耀くんも」
「我、も?」

僕は無言で頷く。
それから、視線を落としつつ続きを言った。
朝から僕を鬱々とした気分にさせていたのはこの事なんだけれど。

「夢で終われば良いんだけど……。僕、不安なんだ。もしかして、これは夢じゃなくて……ホントになるんじゃないかって……」

言いながら、なんだか寂しくて泣きそうになった。
また一人になるなんて、嫌だもの。
考えたくなくても、取り残される自分の姿しか浮かんでこなくて、じわりと目頭が熱くなる。

ふぅ、と嘆息するのが聞こえたかと思うと、右半身に重みを感じる。

見ると、耀くんが僕の体に寄り掛かってきていた。
厚着越しでも、じんわりと温もりが伝わってくる。

「耀くん……?」

突然どうしたのだろう、と僕は彼の名を呼ぶ。
耀くんは、僕を見上げてぷっと噴き出した。

「ぷはっ!何泣きそうな目してるあるか!」
「えぇ~?なんで笑うのさ?」

酷いなぁ、こっちは本気で相談してるのに。
くすくすと可愛らしい笑いを漏らしながら、悪い悪いと謝る耀くん。
笑い声は次第に止んで、耀くんは相変わらず雪兎をその胸に抱き締めて、改めて僕を見上げてくる。

その表情は、とても綺麗な微笑み。

「そんな夢、心配してても仕方ねーあるよ。本当にそれが現実だというなら、今ここに居る我は幻想あるか?」

ひどくゆっくりとした動作で、僕は左手を持ち上げて、隣の暖かさに触れた。
確かに、僕の手の先に、耀くんは居る。
耀くんはまた雪兎を片手で抱えて、その頬に触れている大きな手に、自分の手を添えた。
二重に感じられる暖かさに、なんだか安堵してしまう。

「どうある?」
「……暖かいね、耀くんは」

耀くんは笑みをいっそう深くして、心地良い音色で言葉を紡いだ。
それはまるで、暗示のような……歌のような。

「我は、確かにお前の目の前に居るあるよ……。だから、泣かなくて良いある」
「……えへへ、ありがとう、耀くん」



どうしようもないくらい、君が好き。

君がこの白い世界が好きだというなら、今は大嫌いでも、愛せるようになるのかな。

敵わないなぁ……ホントに。
だって、こんなにも。

君は優しくて、暖かいんだ――。



fin.
作品名:灰空よ、愛を謳え 作家名:三ノ宮 倖