柔らかく溶かして
試す、なんてつもりは無かったのだけれど。
ちょっと聞いてみたくなった。
【柔らかく溶かして】
「……ねぇー……」
「何あるか……」
リビングに設置された、大きな煉瓦造りの暖炉の前。
ふかふかのソファに、二人の人影。
ひとつの毛布に一人は体を丸めてすっぽりと収まり、もう一人の膝を借りて寝転がっていた。
もう一人は、普通に座って毛布を足に掛け、本を広げていた。
先程の言葉の続きはなく、燃え盛る炎に木々が焼かれていく音がするだけ。
本に視線を落としたまま、黒髪の人は催促した。
「……自分から話しかけておいて何もねーあるか?」
もぞ、と大きな体を動かして、やっとの事で彼は口を開いた。
「……ずっと、君に聞いてみたい事があったんだけど……」
どことなく不安げな声に、本を閉じて眼下の人を見る。
紫の瞳がこちらをじっと見上げていて、視線が丁度交差した。
「どうしたある?」
琥珀色の瞳が優しげに細められる。
まるで、眠れぬ子供をあやす母のように。
そして、見上げる彼は見下ろす彼に問う。
「なんで……耀くんは僕の傍に居てくれるの?」
唐突な質問に、彼は眼で何故?と問い返した。
だって、と言って幼子のような大きな彼は、その体をますます小さく縮こまらせた。
「みんなは、僕のこと怖い怖いって言って遠ざかるじゃない。一緒に居てくれたって、そういう雰囲気だし……。耀くんは……どうして?」
どうして 傍に居てくれるの
「……。まったく、仕方ねーヤツあるな」
嘆息すると、手にしていた本を傍らに置き、すっと身を屈めた。
柔らかな唇が、雪のように白い額に触れて、すぐに離れる。
あまりこういう事を自分からしない人なので、意外な行動に寝転がった彼は目を白黒させた。
身を起こした琥珀の人は、恥ずかしそうにほんのりと頬を染めつつやんわりと微笑んだ。
「……我が、イヴァンの傍に居るって決めたから……あるよ。理由にならないあるかね……?」
それを聞いた途端、紫の彼はがばっとその人に抱きついた。
あまりにも、嬉しくて。
「ぅわっ!なっ、何あるか!」
「ん~……大好きっ!」
「……!」
ぎゅうぎゅうと笑顔を腹に埋めながら、実にストレートに告げられた。その告白に、彼は観念したように銀髪を包み込んで抱き締めた。
「はいはい……。我も、あるよ」
「ホントに?やったぁ♪」
暖かさを分かち合う僕らは、
あまりにも、幸せで――
fin.