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まかろに恋物語

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お願い!
ちゃんとこっちを見てよ!



【まかろに恋物語】



そわそわ。
わくわく。

空港でうろうろと歩き回る、くるんな兄弟ふたり。
祖父の旧跡を訪ねに、ある人が単身このイタリアにやって来るというのだから、落ち着いてなどいられないのだ。

「う~、情けねぇ……。すげぇ緊張してきやがった」
「俺もだよ~。ハグしても大丈夫だよね?」

あわあわと相談していると、遠目に彼の人の姿を確認した。
黒い絹のような髪。
簡素ではあるが、特徴的な民族衣装。
永い刻を閉じ込めたかのような、琥珀の瞳。
流麗なその仕草。

紛れも無く、王耀その人であった。

彼は兄弟に気付くと、大きく手を振った。

「フェリシアーノ!ロマーノ!お待たせあるー!」

まさに、華のような笑顔。
フェリシアーノとロマーノは、思わずドキリとして動きを止めてしまう。
何を隠そう、耀は二人の想い人なのだから。

兄弟の元へ駆け寄ってきて、耀が怪訝そうな顔で二人を見る。

「……どうしたあるか?」
「え、ごめんごめん。あんまりにも耀が綺麗だったからさ~」
「まったくだぜ。どうやったらそんなふうに生まれんだ?」
「男にそんな世辞言っても仕方ねーあるよ」

くすくすと耀が笑うだけでも、ひどく美しいものに感じられる。
恋をしていると、よく相手へのイメージが美化されがちだが、これがそうなのだろうか。

「ま、ともかく……ようこそ、俺たちの家へ」

一言告げると、兄弟は耀の頬にそれぞれ挨拶のキスを落とす。
耀がくすぐったげに笑って「謝謝」と言った。
さて、とロマーノが場を仕切りなおす。

「長旅お疲れさん。休むか?それとも飯食うか?」
「そうあるねぇ……。一寸休憩したいある」

荷物もあるし、と耀はちらりと足元の旅行鞄を見た。
数日滞在するために、一人にしては随分と量が多かった。
ぽん、とフェリシアーノが嬉々として手を叩く。

「だったら俺んち来なよー♪」
「おい、こっからだったら俺んちの方が近いだろ」

むぅ、と睨み合った兄弟の間に、耀が制裁に入る。
何故そうなったか、耀本人はよく分かっていないのだが。

「ちょ、二人とも待つよろし!とりあえず今はロマーノの家に行くある。フェリシアーノの家には、そっちの方を見に行くときに泊まるあるね。いいあるか?」

耀を見た後、二人は顔を見合わせ、納得したように頷いた。
一旦ロマーノの家で休息した後、レストランで食事をし、様々な場所を見て回り、お互いの家の話をした。
終始、三人には笑顔が絶えなかった――

*

夜も更け、耀が早々とロマーノの用意した来客用の寝室で眠りについたころ。

二つのベッドが並べられた部屋で、ロマーノは窓から明かりの消えない都市部を眺めていた。

「兄ちゃん?まだ起きてたんだ」
「あぁ……。なんか眠くねぇ」

フェリシアーノが部屋に入ってきて、隣のベッドに腰掛ける。
なんとなくこちらを見ているような気がして、ロマーノは振り返った。
やはり、フェリシアーノは自分を見ている。

「……なんだよ」
「んー……。なんかさ、俺たち……まるで耀に相手にされてないね」
「知ってるよ、そんなの」

耀は、自分たちを子供としか見ていない。
あの優しい態度は、明らかに我が子に接する親のものだ。
確かに、耀より自分たちは若年だ。
しかし、だからといって彼を好いている気持ちを簡単には諦められない。

「……でも、やっぱり綺麗だったね、耀。町回ってる時に手繋いでくれたじゃない?どうしようかと思ったよー」

フェリシアーノはこてん、とベッドに横になりながら、嬉しそうに顔を綻ばせている。
そんな弟を見て、ロマーノもまた、嬉しそうに微笑んだ。

「俺もだ」

*

ローマ周辺に三日ほど滞在した後、フェリシアーノの家――ヴェネチアに移動。
建造物や博物館などを見学して、美味しいものを食べて、沢山話をして。
そこでも、また三日ほど。

イタリアに耀が来て、六日目。
三人はゴンドラに揺られながら、沈む夕日に照らされる町を眺めていた。

ふと、耀が二人に声をかける。

「そういえば……お前たち、ローマ帝国のことは好きだったあるか?」

あまりに突然の問いかけに、兄弟はきょとんとしてしまった。
耀はふわりと微笑む。

「すまねかったあるな、突然。なんだか……この地を回っていたら、昔を思い出したあるよ」
「昔……?」
「あっ、そうか!耀ってじいちゃんに会った事あるんだよね!?」
「え?マジかよ!」
「耀から見て……じいちゃんってどんな人だった?」

ひとつ、耀は首肯した。
風になびく前髪を細い手で押さえながら、遠き日の思い出を語り出す。

「あいつと初めて会ったのは、もう数千年も前になるあるね。『砂漠越えて来た!』って言われた時は、なんて出鱈目なヤツなんだと呆れたある……」

それから、耀はゆっくりと、かの大帝国との記憶を語っていった。
何処か楽しげに、それでいて、寂しげに。

「来るたびに、ワケ分かんねーもんばっか持って来てたあるが……」

結びに、耀は目を伏せ、かすかに笑った。

「楽しかったあるよ……」

ゴンドラは、いつの間にか船着場に着いていた。

*

夜。
またしても、ロマーノは外を眺めていて。
後からフェリシアーノが来て。
何となしに、会話が始まる。

「やべ……なんか泣きそうだ、俺」
「泣かないでよ兄ちゃん。つられちゃうから……」

二人がこんなことになっているのは、夕方のゴンドラの件。
思い出を語る耀の表情、声色。
あれは。



――きっと、耀は遠い昔……祖父に恋をしていたのだ。

しかも、その恋は彼が亡くなることで終わりを迎えた。



そんな耀の気持ちにつけ込むような真似はしたくない。
だが、彼を好いているのは紛れもない真実。

「兄ちゃん」
「なんだよ、このやろー……」
「俺……諦めないから」

ロマーノはフェリシアーノの方へと振り返る。
そこには、珍しく強気な表情の弟が居た。

「やっぱ……耀のこと、好きだし。こればっかりは逃げられないよ」

兄は弟へ向き直り、正面から相手を見据えた。
茶色の澄んだ瞳、似て非なる二人。
先程までの弱気な雰囲気とは打って変わって、ロマーノは不敵に笑った。

「お前がそう言うんだったら……俺だって負けねぇぜ」
「うん、改めて勝負だよ。兄ちゃん」

二人は拳を軽くぶつけあって、笑った。



力で勝てなくたって、
好きな人を射止めることくらい、
したっていいじゃない。

俺たち頑張るから、
ねぇ、こっちを見て!



fin.
作品名:まかろに恋物語 作家名:三ノ宮 倖