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だってほら、奇跡は尊いんだ

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「俺は、不幸だと思う」

ぽつり、と零した言葉に、じとりと目を細めてレッドを睨むグリーンは何でと不機嫌そうな声を返す。
不幸だよ、と心の中で繰り返しながら向けられた視線から逃げるように俯いて、膝を抱えた。
何でと問われたって、明確に提示出来る答えはない。そう思ってしまったから、思ったとおりの言葉を口にしただけのことなのだから。

「幸せだろ、フツーに考えて」
「違うよ。世界に二人きりしかいないのは、それはとても不幸なことだよ」
「だから、何でだよ」

ここ最近ジムの方が忙しくて頻繁にレッドのところへ来ることが出来なかったグリーンが、いつも通りの笑みに少し疲れを滲ませて呟いたのだ。
『世界に俺とお前しかいなかったら、幸せだろうなぁ』と。
その気持ちは分からないでもなかったし、実際そうなってみたらもしかすると本当に幸せなのかもしれない。
グリーン自身まさか否定されるなどとは思いもしなかったのだろう。

けれど、その言葉を聞いて思ったのだ。
それはとても、不幸なことなんじゃないか、と。

「・・・二人きりの世界でだって、別れは来るんだ」
「・・・・・・」
「その時、きっと俺は・・・そんな世界を恨むよ」

逃げ道のひとつもない世界で、どうしたら彼がいなくなることを想像せずに幸せでいられるだろう。
それはとても難しいことのように思えて仕方がなかったし、だからと言ってグリーンを一生レッドの傍に縛り続ける術など分かるはずもない。
誰にだって死は訪れるし、気持ちがずっとその場に在り続けるなんてこともないのだ。

「普通そこまで考えねーと思うよ、俺は。そうだねって頷いときゃいいのに」

呆れたような顔をしたグリーンが大袈裟に溜め息をついて、わしゃわしゃとレッドの頭をかき回す。別に本気でそうなって欲しいと思っての言葉ではなかったのに、真剣に答えてどうするんだと窘められているような気がした。(だってグリーンは、口では何と言っていても姉や祖父を心から慕っているのだから、本当にそんなことを望むはずがないのだ)

「・・・うん、そうだね」
「今更頷いてどうすんだよ。・・・でもまぁ、とりあえずこの場に二人きりの空間があるから、良しとしとこう」

今この瞬間だけ、二人きりの世界だったら、幸せでもいいんだろ?
そう言って笑うグリーンに、今度こそそうだねと頷いて笑った。





たった一人を失えば闇に堕ちるしかない世界を『幸せ』と呼ぶぐらいなら、たくさんの人々が生きるこの世界でたった一人に出会えた奇跡を『幸せ』と呼びたいのです。