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ふかふか・ごろごろ

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 ふかふかの絨毯の上に寝ころぶのは気持ちいい。
 ビールの空き缶が転がるミニテーブルをちょいと端にどけて、絨毯の上に仰向けに寝そべって白い天井を見上げると、6畳間でも少し広々と感じるものだ。
「静雄、どうした。もう酔っちまったか?」
 冷蔵庫から新たな缶ビールを2本ぶら下げて、風呂上がりの上司がパジャマ姿で台所から出てきた。冷たいビールを額にあてられて、それを受け取って静雄は起き上がる。
「少し酔ったみたいっす」
「そっか。風呂どうする?」
「明日にしてもいいっすか」
「ああ」
 ビールのプルトップを抜きながら、トムは軽く頷いて笑った。
「気分悪いなら、寝ててもいいぞ。ただしベッドでな」
「絨毯で寝ころぶのも気持ちいいですよ」
 やはり酔っているみたいだ。頭のフラつきが小さな頭痛へと変化しつつあるのを感じ、静雄は缶ビールをテーブルに戻した。それからうとうとする意識をしっかりさせようと瞼を腕で擦る。
「なんだ眠いのか」
 トムの声。
「そんなことありません」
 否定する。だって、もっと話したい。上司の部屋に泊まるのは初めてじゃないけれど、そんなに滅多にあることじゃないし。
 一人だけ先に眠くなるなんて、そんなの勿体なさすぎる。
「ほら、舟こいでるぞ、静雄」
 笑いながらトムの手が静雄の肩に触れた。
「……そんなことないっす」
 少しぼうっとしてるだけだ。
「もっと俺……トムさんと話がしたいです」
「んー、何の話すっか? でも別に明日でもいいだろ」
「そうですけど」
 瞼が重い。座っていられなくて、その場で再び寝そべろうとしながら静雄はぶつぶつと口を動かした。
「……今夜がいいんです」
「こら、こんなところで寝るなって……。ああもう、仕方ない奴だな」
 トムは立ち上がると、奥から毛布と枕を運んできて完全に絨毯に寝ころんでいた静雄に与えた。
「俺はもうしばらくここで起きてるから。話したいことあるならなんでも言えばいいべ」
「……っす」
 うとうとしてる。自分でも思う。
 ああもう、悔しいなぁ。飲みすぎちまった。
 今日は給料日で。今月の成績がいいと珍しく社長に褒められたりしたせいで、すっかり機嫌のよくなった二人は調子に乗って、焼き肉でもしようって話になって。
 でも外食だと高いですね、食べ放題の肉はまずいっすね、みたいな会話の流れで、じゃあ俺の家でやるべ、ってトムさんが言って。
 二人だけで盛り上がったから、他に誘う相手もいなくて、男二人の焼き肉なんてわびしいような気もしたけれど。
 ――トムさんはどう思ってるか分からないけど、俺はすごく幸せです。
 この嬉しさをどんな風に伝えればいいんだろう。
 静雄はすぐ隣に座って、テレビを見ているトムの顔をじっと見つめた。

 ――トムさんと出会えて俺は最高に嬉しいです。
 ちょっと変か。
 ――トムさんのこと俺大好きです。
 それもなんか……
 ――ずっと一緒にこれからもいさせてください。
 愛の告白みたいだ……。

「……ん、なんだ、静雄まだ起きてたのか」
 視線に気づいたのか、トムが覗き込んできた。色々な感謝の言葉を思い浮かべては没を出し続けていた静雄は、驚いて目を見開き、――耳まで赤くなった。
「あ……いや」
「んー? なんか変なこと考えてたろ。顔赤いべ」
 はは、と目を細めて笑う顔。それについ見とれてしまった。
「トムさん、俺……」
「どうした?」
 彼の指が静雄の前髪をつまんで、目の上からどけてくれる。優しい仕草。
 世界で一番、甘やかしてくれる人。
 この人の側にずっといたい。
 色んな思いがぐるぐるとけだるい体に巡って、この気持ちをどうまとめていいかも分からないけどとにかくその思いを言葉にしたら。
「……トムさんと会えてよかったっす」

 ――あ、今のはよかったかも。
 静雄は口から紡いだ言葉に満足した。思いついた言葉のどれよりも一番いい。
 満足して、安堵の思いに包まれた静雄は、ますます心地良い気分になり、そして――

「……それが言いたかったのか」
 くぅくぅ、と本格的な寝息をたてはじめた後輩の額をつついて、トムは小さく苦笑した。
「俺もお前と会えてよかったよ、静雄。本当に」
 もう聞こえてないだろうと思いながら、静雄の耳元に彼は囁き、それから缶ビールの残りを喉の奥に押し込む。

 静雄はずるいなぁ。
 言いたいことだけ言って寝ちゃうなんてさ。
 本当は、よかった、だけじゃまとめきれない思いだってあるんだってことを教えてやりたくなることだってあるのにさ。

「なんちゃってね」
 ビールを飲みきると、トムはその場を立ち上がった。
 静雄の側にこれ以上いると、つい悪戯をしてしまいそうだから。
 俺はひとりでベッドで寝るとしよう。
「おやすみ、静雄」
 壁のスイッチに手をかけて、トムは寝息を繰り返す可愛い後輩の顔をじっと見る。
「……」
 もう一度、彼は優しげな微笑を浮かべて、小さく何かを諦めながら部屋の電気を消したのだった。

                                   おわり。







作品名:ふかふか・ごろごろ 作家名:あいたろ