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プリンよりも好きなものがある。

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 プリンがない。

 いつもいつも人騒がせな情報屋が例に漏れず人騒がせにそんなことを喚きだしたのは、こともあろうに、泣く子も黙るどころか失神しそうな池袋の喧嘩人形、平和島静雄の部屋で、それも部屋の主が遥か眠りの底に沈みかけている夜中の二時のことだった。
 夜中の二時だ。発情期の猫ならともかく、大抵の人間は眠っている時間である。眠っていなくても自然と遠慮の塊になる時間である。
 もう一度言うが、夜中の、二時である。遅くまで仕事に勤しんで、ようやく帰ってきた静雄が一息つき終わって眠る。そんな時間である。
 初めは、冷蔵庫の扉を開閉する音があまりにもしつこいので目が覚めた。いつもなら朝が来るまでは何があっても眠りつづける静雄が目を覚ましたのである。つまり相当しつこくて、煩かったのだ。
 キッチンから聞こえてくる妙なリズムに快眠を妨げられ、MK5状態で扉を開け放った静雄は、しかしながらその最高潮に達した怒りをどこに放つこともなく、しばし呆然と立ち尽くした。
 暗い。そして何だかこわい。怖い。
 たどり着いたキッチンは何故だか急に静まり返っていて、しかも暗い。そして何故かある一点がぼうっと光っていることに気づき、静雄はうっかり妙な声を出しそうになって、慌てて口元を押さえた。本気で怖い。
 薄暗い部屋で半開きの冷蔵庫の前に突っ伏して、普段ならどこにいても目立つことこの上ないかの情報屋は、まさかの空気と化していた。最初はぴくりとも動かないと思ったのだが、暗闇に慣れてきた目でよくよく見ると、細身の静雄よりもなお細い肩が小さく震えている。
 ありがたくもなんともない、むしろ疎ましいかぎりの腐れ縁によって、誰よりもこの情報屋、折原臨也を知っている静雄でも、正直この状況は予想外だった。なんだこの状況。
「・・・おい・・・・何、してんだ・・・?」
 戸惑いながら問い掛けた静雄の声に、臨也の肩が揺れる。
 自分の腕に口元を押し付けているのか、幾分くぐもった呻きが、床の上の塊からもれた。そして呻きながら、はなをすする音が聞こえる。呪いのように聞こえていた呻き声が、段々と明瞭になるにつれ、静雄は怒りを滾らせるどころかますます混乱して眉をしかめた。
「ばか。ばか。しずちゃんのばか。ばかばかばか。ばか、おれ、たのしみに、とっておいた、のに・・・!」
 くぐもった涙声でぐずぐずと、情報屋はいつになく語彙の足りない悪態を繰り返す。無限の語彙力を誇る悪態だけが、こいつの取り柄だったはずでは。そんなどうしようもない疑問も、飛ぶように静雄の頭の端っこを過ぎ去っていく。
 誰が馬鹿だ馬鹿はテメーだ死ねいや殺すむしろ殺す殺殺殺殺殺殺──。
 胸の奥では、そんなことを思っているはずなのに、なぜか何も言えない。よくわからない。状況が、まるで理解できない。
「きらいなんだ、きらい、なんだ、しずちゃ、ん、おれのこと、きらい、なんだぁ、わぁああああ!!!」
 終いにはこどもみたいに大泣きしはじめた臨也の様子に、意味もなく静雄までもが落ち着きをなくす。キッチンの戸口に立ち尽くしたままで、腕をあげてはおろし、あげてはおろし、床でじたばたとしている臨也をどうしていいか判らない。動物園のクマみたいに、その場でうろうろと歩き回るだけで、一向に状況が改善される余地がない。
「きらいだ、ばか、しずちゃん、ばか。きらい。ぷりん、たべたかった、ばか、ばかばか。ばか」
 体を僅かに起こして、眦を赤く腫らして泣きぬれた目で静雄を睨んでくるその表情に、訳も解らないまま静雄はそっと目を逸らした。
「・・・・・・・悪かった、泣くな・・・」
 そう呟くように言うのが精一杯だったのだが。
 視界の端に捉えた赤い両目からぼろりと水が落ちるのを見て、思わず口をついて出てきそうになった言葉を、静雄は手の甲で押さえて誤魔化した。
 泣きたいのはむしろこちらの方なのに。夜中に起こされ、訳も解らず、悪態をつかれているのに怒ることもできないなんて。
 あんまりだ。
 けれどそう思いながらも、ようやく動くようになった手足を引きずって、静雄はゆっくりと天敵の傍にしゃがみこむ。そうして、そっと肩口を抱き寄せて、泣きつづける臨也の背を撫でた。辛抱強く落ち着くのを待っていると、肩で息を整えながら、臨也が胸元に頭を凭せかけてくる。
 まるで猫が擦り寄ってくるようなあまい仕草に、静雄はけれども今だけは、気づかなかったふりをした。
 気づかなかったふりを、した。
 そう、今だけは。





(おまえのことが、嫌いなわけじゃねぇよ)