銀新/合鍵/銀魂
合鍵をもらったのは、働き始めて二週間ほどたった頃だった。
その日、銀さんはなんだかそわそわしていて、様子が変だなと思っていたら、鍵を渡された。
「これ、ここの鍵」
ぶっきらぼうに銀色のそれを差し出されて、僕は驚きながらそれを受け取った。
「今度から勝手に入ってきていいから。俺いるときでもピンポンしないでそれ使って」
「あ、はい。ありがとうございます」
銀さんがずっと握っていたのか、鍵はぬるくなっていた。
なんでもないように礼を言ったけれど、この鍵を渡されて僕がどんなに嬉しかったことか。
銀さんは肩の荷がおりたようにすっきりとした顔をして、テレビを見始めたから気づいてないだろうけど。
自分の家以外の鍵をもらったことなんて生まれて初めてだった。
うちは母親がいなかったから、子供の頃から家の鍵は持たされていたけど、いや、持たされていたからこそ鍵はとても大事なものだと思い込んでいたのだ。
ましてや、ただの事務所じゃなくて銀さんの家の鍵だ。
だからそんな大事な鍵を、わざわざ合鍵を作って、まだ知り合って数週間の自分に渡してくれたことがとても嬉しかった。
信用してもらえたというか、なんというか、仲間になれたと思った。
銀さんの内側には入れたような、自分を認めてもらえたように感じたのだ。
そして。
鍵をもらってしばらくたつ今、僕は荒い息をして天井を見ている。
揺さぶられて出てしまう高い声を押し殺して、この家の合鍵を持っているもう一人のあの子が帰ってこないかとぞくぞくしながら。