いつもそばに。
見渡す限りの草原の中に、ポツンとそびえるこの大樹に。
いつも悲しそうな、それでいて寂しそうな顔をしていた。
毎日、毎日。ここへ来ては、声を殺して、涙を流していた。
なにが悲しいのだろうか。なぜ、一人なのだろうか。
私は次第に、その少女の事を気にかけるようになっていた。
その少女は、ある時から次第に涙を流さなくなっていた。
しかし、その顔は変わらず悲しそうな表情で。
私は、その少女の事を気にかけるようになっていた。
少女が涙を流す事がなくなってから、月日が流れた。
少し成長した少女は、いつからか悲しい顔もしなくなっていた。
そのかわりに、どこか遠くを見つめているような、そんな瞳をするようになっていた。
私は、その瞳にも興味を持った。
いつからか私は、少女のそばにいたい。
なぜかそう思うようになっていた。
しかし、少女は私の存在に気づいてはいない。
少女の瞳は、私も、この大樹も、目の前の草原すら映っていないようで。
ただ、遠くにある何かを見つめているような、そんな瞳
それに、私が映るはずもないのだ。
どうにかして、それに私を映す事は出来ないだろうか。
それを考えているうちに、また月日は流れた。
1つ、思いついたとしても、それではダメなのではないだろうか。
もっといい方法があるのではないだろうか。
そんなことを考えてしまって、いつも何もできないままだった。
ある日少女は、夜遅くにやってきた。
普段私は、夕方から夜中にかけて行動し、食べ物を探す。
食事が終われば、この樹に帰ってきて、眠る。
そして、少女が来る前に目を覚まし、少女を待つのだ。
それが、少女がこの樹に来た時からの私の生活。
その日は、私が食事を終えて、樹に帰ってきたのと同時に、少女がやってきた。
その顔は悲しそうではなく、そして寂しそうでもなく。
むしろ、嬉しそうな色をしていた。
その瞳は、どこか遠くを見ているのではなく、しっかりと目の前を捕えている。
そして、その瞳は決意に満ちていた。
その瞳は、今帰ってきた私に、真っ直ぐに向けられていた。
私はそれに、心底驚かされた。
いつも私の事を見ることがなかった瞳が、
私の事を知らないと思っていた瞳が、
真っ直ぐに私を捉えていたのだ。
私が驚かそうと思っていたのに、逆に驚かされてしまった。
しかし、それでもいいと思った。
少女の瞳に、私を映す事が出来たのだから。
少女は、私を見つめながら、ゆっくりと話しだした。
「ねぇ、ジュペッタさん。私と一緒に来てくれないかしら?」
それは、とても喜ばしい申し出だった。
少女の傍に居たいと思っていた私を、傍に置いてくれるというのだ。
「いつも私の事を気にかけてくれていたでしょう? 貴方となら、楽しくできそうな気がするの」
私はゆっくりと少女の前へ進み、こくんと頷いた。
私が言葉を発しても、少女には理解できないだろう。
「それじゃあ、本当はイヤなのだけれど、このボールの中に入ってるかしら?」
少女はそう言いながら、1つのボールを手に取った。
それは、黒いボールだった。
少し赤の模様が入っているボール。
「これね、ゴージャスボールって言うの。捕まえたポケモンが懐きやすくなるからって、貰ったのだけれど………
いいかしら?」
私はもう一度頷いて、目をつむってボールを待った。
こつん、と頭に硬いものが当たる感覚。
その後、身体を持って行かれる感覚。
そして、私はボールの中に収まった。
このボールの中と外は、ほとんど完全に切り離されている。
しかし、音だけは聞こえるのだ。
「これからよろしくね、フリント」
少女がそういったのがそう聞こえた。
見えていないだろうが、私は頷いて、これからの事に想いを馳せた。
また、あの悲しそうな顔を見なくていいように。
また、あの涙を見なくていいように。
この、フリントという名を貰ったからには。
私は、少女の傍に、居続けようと思う。