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チョコレート
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novelistID. 7958
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そして ~伝えない気持ち6~

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「………はぁ」


佐藤くんが行ってしまってから、しばらくたった。
僕はまだ、公園のベンチに座っている。
涙がなかなか止まらなかったから。


最近、泣いてばっかりだな…。


人を好きになると、嬉しいことが増える半面、切なくて苦しいことも増える。
佐藤くんを好きになってから、いろいろと気付いた。
別に、今まで誰とも恋愛をしてこなかったわけじゃない。
僕だってもう二十歳だし、それなりに経験はしてきたつもりだ。
でも、今回は例外だと思う。


相手が、同性であること。


僕はホモフォビアなわけじゃない。
世の中にはそういう人もいる、そう思っていただけ。
でも、実際に同性を好きになってしまって、気付いた。

絶対に受け入れて貰えないだろうという、絶望感。

好きになった相手に嫌われるのは、怖い。
だから、言えない、絶対に。

佐藤くんが、同性に告白されたからって軽蔑するような人じゃないのは分かってる。
きっと、真剣に聞いてくれるに違いない。
優しい人だもの。

でも、告白は出来ない。
きっと困らせてしまうから。
佐藤くんが轟さんを好きなのは知ってるから。

僕は、佐藤くんに迷惑を掛けたくない。
バイトを辞めるのは僕の弱さだけど、引いては佐藤くんの為。
なのに…


佐藤くん、怒ってたな…。


僕のこと、心配してくれたんだんだ。
なのに、突然辞めるって話を聞いた。
そりゃ、怒るよね…。

「…くしゅんっ!」


突然くしゃみが出た。

寒い。

春先とは言え、もう夜も随分遅い時間だ。
ずっと公園のベンチでじっとしてたら、それは寒いに決まってる。


そろそろ、帰ろうかな。


そう思ったその時。
肩に突然何かが掛けられた。


「!!」


ビックリして立ち上がり、後ろを振り返る。


そこには、佐藤くんが立っていた。



「なんで………、帰ったんじゃなかったの?」


普通に声が出て、しゃべっている自分が不思議だった。
頭の中は、真っ白だったのに。


「このクソ寒い中、お前がいつまでたっても帰ろうとしないからだろ」


え?………………………………それって


「ずっと…、居たの…?」
「ああ」


もう、何も考えられない。
頭の中も、目の前も、全てが停止してしまった。


茫然自失している僕を、佐藤くんは怪訝そうに見ている。

「おい、相馬?」


だって、僕、さっき、好きって、佐藤くんが好きって、口に、出さなかった……?


ていうか


「泣いてたの、ずっと見てた……?」


「ああ。…まぁ、だから余計に帰れなかったっつーか…」



待って。待って、待って。待って、待って、待って!


「佐藤くん!…その…、僕の声、何か、聞こえた……?」






「ああ、俺のことが好きだって」





全てが終わった気がした。



「佐藤くん…」

「相馬。お前、俺のこと」

「待って!」



どうしたらいいのか。

もう分からない。

でも、

もう知られてしまったのなら

いっそ、

告げてしまおう。



そして、終わりにしよう。




「……うん。………好き、佐藤くんのことが。………一人の、人として」

「それは、…恋愛対象でってことだな?」

「………うん」


情けなくも、僕の声は震えてしまった。
体も、震えている。


緊張と、恐怖。


だって、次に佐藤くんに告げられることは、きっと…………





「俺で、いいんだな?」





………………………………え?




「相馬…」


そう言って、佐藤くんは僕に近づき、腕を伸ばす。

気が付くと、僕は、佐藤くんの腕の中。


え?え?え?


「さ・佐藤くん?あの…」


戸惑った声を上げる僕に、佐藤くんは僕を抱く腕にさらに力を込め



「俺も、お前が好きだ、相馬」


そう言った。




「う・そ…。だって…、佐藤くんは轟さんが好きでしょう…?」


「…ああ。確かに好きだった」



………………だった?


「それって………」

「お前が泣いてばっかいるから、心配で、目が離せねぇよ」

「……………佐藤くん……………」

「お前には、笑ってて欲しいんだ」

「!!」

「お前の笑ってる顔が、好きなんだよ、相馬」


近くで優しく響く、佐藤くんの声


「…………ほんとに……?佐藤くん…」

「ああ。………だから、泣くんじゃねぇよ」



腕の中で泣き出した僕を、佐藤くんは優しく、そして困ったように見つめている。



だって……、だってまさか、想いが通じるなんて……



「佐藤くん…、好き。…これからも…、好きでいていいの……?」


不安に揺れる僕の瞳を、佐藤くんの強い瞳が捕らえる。


「ああ。ずっと好きでいてくれ」


俺も、お前のことをずっと好きでいるから


そう言って、佐藤くんは僕にキスをした。





それはまるで、誓いのキスのようだった。


きっと、一生忘れない


始まりの時