依存関係
タイミングが悪かったらしい。
部屋の中はもぬけの殻。
「折角ドーナツ買うて来たっちゅうのに」
唐突に食べたくなり、買ったのはいいのだが、少し買いすぎた。
「しゃーないな、ちぃとばかし待っとくか」
部屋に備え付けのベッドへ腰掛ける。
一人きりの部屋に、ギシリと言う音がやけに響いた。
主が帰ってくるまで、特にすることもなく。手持ち無沙汰に辺りを見回す。
そして、ある一点で目を留めた。
ベッドで煙草を吸うなとよく怒られるが、脇に灰皿など置くほうが悪いのだ。
胸ポケットから煙草を出し、一本取り出す。
銜えて、流れるような動作で火を点ける。そして、吸い込み吐き出す。
その動作を続けながら、天へと上っていく紫煙を眺めた。
その時、廊下を軋ませながら此方の部屋へ歩いてくる足音。
やっと帰ってきたのかと思い、煙草を灰皿へと押し付けた。
「あれ……どうしたの?」
部屋に戻ると、ウルフウッドが待っていた。
ベッドに腰掛け、また煙草を吸っていたのか。部屋が少し煙たい。
ベッドで煙草を吸うなっていつも言ってるのに、聞きやしない。
「ドーナツ食いたなってな、一人じゃ食べ切れんねん」
脇に置いてあった箱を持ち上げ、此方へと寄越す。
受け取ると、まだ結構入っているのが分かる。
「またこんなに買ったの?」
仕方ないなぁと言いながら、苦笑。
箱から一つ摘み上げ、口に運ぶ。
そして、さっきから気になっていた事を聞いてみた。
「ところでさ」
「なんや」
「君のココ、紅いけど……何、それ?」
「っ!?」
首筋に紅い、虫刺されの様な痕。
痒そうにしていないところを見ると、察しは付く。
「へぇ、浮気?いや、別に良いけどね」
「そんなわけ、ないやろ」
手で隠しながら、一応、否定。
さて、どうだか。
本当のことは僕には分からない。
「別に……僕は君の事、束縛したいわけじゃないから。好きにしていいんだよ?」
「……っ」
ほら、君が無防備にそんな顔するから、皆が放っておかないんだよ。
だから変な虫が付くんだ。
「少し、お仕置きが必要かな?」
「トンガリ、何言うてんねん……?」
「なんてね、冗談」
その言葉を聞いたウルフウッドは、眉根を寄せている。
そんな顔を見た僕は、少し自嘲気味の笑顔を零す。
仕方ないよ。
君が僕を、拒絶をしない限り。
僕は君を、手離せないんだ。