甘い君
「おいし?」
上機嫌でこちらを覗き込む彼の手には、くすんだ緑色のジェラート。抹茶味なのだというそれを、彼はさもおいしそうに舐めあげる。
「おいしいです、けど」
濃厚なミルク。甘くて、冷たい。日差しの強いこんな日には打ってつけだ。
「けど?」
ああ、私もあれにすればよかっただろうか。抹茶。きっとミルクよりもおいしいに違いない。隣の芝生というのは、いつでも青く見えるものだ。
「フェリシアーノくんのは、どうですか?」
見当違いな八つ当たりを滲ませながら私が聞くと、フェリシアーノは半分ほどになったジェラートを差し出した。
「すっごくおいしい!」
どうぞと促す瞳にそそのかされて、私はえいやと舌先を伸ばした。溶けかかったジェラート。香ばしい匂いの表面まで、あと僅か。
「なーんちゃって」
けれども、魅惑的な若草色は思い切り良く齧り付く前に、ひょいと姿を消した。代わりに唇へ触れたのは、ひんやりとぬめるほろ苦さ。
「――――あー、やっぱりミルクにすれば良かったかも」
ちゅ、と派手な音を立てて離れていった舌を見送って、私はぼんやりと顔を上げた。
「フェリシアーノくん」
「んー?」
「・・・・くれないんですか?」
「何を?」
ジェラート。抹茶のジェラート。味見できると思ったのに。
私はよほど情けない顔をしていたのだろうか。ヴェーと笑ったフェリシアーノは、少しだけ考えてから口を開いた。
「だってさ、菊が欲しそうにしてたから」
その通りだ。何も間違ってはいない。
「だから、あげたじゃん」
「・・・・・・もらってません」
「えー、足りない?」
仕方ないなあと呟いて、フェリシアーノは再び顔を近づけてきた。
「キスして欲しかったんでしょ?」
あああ抹茶が。私の、一口、
「足りないならいくらでもあげるよー」
「いやそうじゃなくて――――・・・・っ」
はっきり言わない私が悪いのか。慮れない彼が悪いのか。ほのかな抹茶味の唇は、ごく当然の態で私の歯列を割ってきた。
「んー、んーーー!」
文句を言おうにも、口を塞がれてしまっていては儘成らない。
視線だけで笑う彼の傍らで、溶けた二つのジェラートがたらりと指を伝った。