ペーパー再録_3
「っだー!もう!!いい加減にしてくださいよ!!」
道を曲がった途端、チュン、と意外に小さい音がして傍らの壁が爆ぜる。あーもーアブねぇ。
「愚痴る余裕があるならちょっとくらいやり返したらどうだ」
「そーしたいのは山々なんですけどね!ちょっとくらい隠れる場所でもないと止まったら的じゃないですか!あんた錬金術師でしょ。大将みたいにぱーっと壁でも作れないんすか!?」
「立ち止まったら私が的になるじゃないか。鋼のの陣を必要としない錬金術は規格外だから一緒にするな。それに私は鉱物系の錬成は専門外だ」
「使 え ね ぇ ぇ ぇ ー !!」
一見冷静に会話をかわしてるように思えるが、2人とも走る速度は緩めない。曲がった先も長い壁の続く路地かと思いきや、どうやらでかい家の住宅街は抜けたらしい。ぎゃーぎゃーと何か後ろから怒声が聞こえるような気がするが気にせず路地奥に走り込んだ。
「これ挟まれたらサイアクなんですけど」
「あちらもそこまで人員を割いてはいないだろうがな。幸い奴等には追っているのが私だとはバレていないようだし、何とでもなるだろう」
確かに。
辺りに気を配っているが、気配は追っ手のものだけだ。しかしそれはそれで騒ぎに乗じてうまく分散出来たはいいが、引き離しすぎてもいけない。適当なところでこの追っ手連中をふん縛らなければならないのだが。
その前にこちらの態勢を整えなければこちらがふん縛られかねないというか。縛られる前にもっと大変な事になるだろうが。
・・・それにしても。
「・・・大佐意外と足速いっすね」
デスクワークばっかで外周りほとんどないし、演習に参加するわけでもないのに。
「隠れてなんかやってたりするんですか」
「そんなワケあるか。第一そんな事をしている暇がどこにあるんだ」
・・・だったらまっとうに仕事すりゃいいのに。
とは思ったが、懸命にも口には出さないでおいた。
「第一遅かったら今頃ここにはいない」
私にとって弾丸とは雨のように降ってくるものだったからな。
さらりと続けられた言葉だったが、その底にあるものは深く暗い過去の話のはずだ。
あまりにあっさりと言われるものだから、そうとは思えないが。
「ヒューズなんか私より速いぞ」
「あー・・・それは、何となく想像つきます」
会話を続けながら背後を伺えば、ちらりと人影が見えた。次の角を曲がった所で、上司からのストップが掛かった。
「鬼ごっこは終わりですか?」
曲がった先は大きな通りではあったが袋小路になっている。それは追っ手連中も判っているのか、追いつめたとかなんとかしてやったりな声が聞こえた。
弾を装填し直して路地の方へと構える。・・・いらないだろうけど、念のため。
さて、チェックメイトはどちらのことだか。
足音が近付いてくる。
連中が意気揚々とネズミ狩りにやってくる。
路地を曲がり、何か啖呵を切るより先に見えるのは、黒に身を包んだ男の、白い手だろうか。
鬼さんたち、お疲れ様でした。
「――――風向きが変わるのを待ってたんだ」
こっちが風下だと色々面倒で。
「戦場に行ったこともないような若造ばっかりの新興テロリストなんぞに好き勝手を許すほど、私はお優しくはないんだ」
真っ直ぐに伸ばされた腕が振るわれ、指先が軽く空気を弾く。
あとは、目を灼く鮮やかな緋が。
インテで配布した次回予告ペーパーでした。
どこまでも、ドタバタが好きです。