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願い事、ひとつ。

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 もう少し、もう少し。

 いや、もっと、ずっと。







願い事、ひとつ。









 かみさま。

 俺の願い事を叶えてください。

 今まではあまり望まず生きてきた俺に、ただひとつ願い事をさせてください。


 「かずき」


 横で笑うこいつの隣で生きていたいのです。

 数ヶ月で俺を変えたこいつの隣で同じように笑っていたいのです。

 自分のせいで誰かが消える位なら自分が消えると笑って言えたけれど、

 だけど決心が鈍ります。

 実感がなく、普通に明日を繰り返すことが出来るだろうと思うのに、

 こいつと話すと急に恐くなるのです。

 俺を呼ぶこの音を聞くのが最後だったらどうしよう。

 俺に笑いかけなくなったらどうしよう。

 なにより、優しいお前は俺がいなくなったらきっと泣く。

 俺は大事なこいつを泣かせたくはないのです。


 
 初めて出来た大切な友達なんです。

 初めて背中を預けられると思った人間なんです。

 初めて一緒にいて安心できた相手なんです。


 
 「どうした、考え事か?」

 「ううん、なんでもないよ。」



 このままだと俺は多分笑えなくなる。

 一番笑顔を向けたい相手の前で、笑えなくなる。

 気を抜けば泣きそうになる。



 かみさま、かみさま、かみさま。

 俺は生きていたいのです。

 ただ、生きていたいのです。

 これからの未来、こいつと同じ毎日を。

 
 たったひとつの願い事を叶えてください。

 どうか、どうか。





 触れた肩先はこんなにも熱い。









 END 


作品名:願い事、ひとつ。 作家名:佐野新