月夜の狼
ベランダから、室内に戻ると、テーブルに突っ伏しているウルフウッド。
「チャペル、寝るならベッドで寝なさい」
「嫌やーワイはまだ飲むんやー」
「いくらなんでも飲み過ぎだ、明日に響くぞ」
「しるかー……んなもんワイには関係あらへんー」
ウルフウッドはテーブルに顔を押し付け、此方を見上げてくる。
困ったやつだ。
いつもは大人びているくせに、こういう時だけ子供っぽくなる。
溜息を付きながら眼下のウルフウッドを見やり、頭を抱える。
「しかしな――」
「五月蝿いやっちゃなぁ……少し黙っとれ」
にやりと悪童の笑みをもらしたかと思うと、腕を取られ。
「お、おいっ!チャペル!?」
「じゃあかしぃ……」
ウルフウッドは身体を起こすと、ミッドバレイの腕を力任せに引き寄せる。
テーブルに乗っていた酒やグラスを押しのけると、身体をテーブルへと押し付けた。
そしてそのまま、片手で両手を頭の上で纏め上げられる。
一瞬何が起こったのか分からず、抵抗出来ずにいた。
瞬時に我に返ると、身を捩り身体を起こそうと試みる。
だが、両足の間に身体を入れられ、それ以上の抵抗を封じられた。
「チャ、ペルっ……いくらなんでも、冗談が過ぎるぞ」
「そう思いたいんなら、そう思っててもええがな」
「っ!や、やめっ――」
少し開いたワイシャツの隙間から指を滑り込ませ、肩甲骨、首筋、耳へと移動させる。
ごつごつとした骨張った指の感食に、背筋が粟立つ。
そのまま顔が近づいてきたかと思うと、耳元で囁いてくる。
「なんや、おっさん、良い匂いするな」
至近距離の吐息に鳥肌が立った。
「おいっ!こらっ!――いっ!」
刹那、チクリとした痛み。
どうやら噛まれたらしい。
そして、首筋を伝う何かの感覚。
「あ、悪いおっさん。つい噛んじまったわ」
「はぁ……お前の悪い癖だ。いい加減直せ」
ウルフウッドはあまり悪いといった風でもなく。
軽く言い放った。
「しゃーないやろ、マーキングっちゅーやっちゃ」
「何故、今、俺につける必要がある?」
「おっさんがあまりにも誘ってくるから」
「馬鹿抜かせ」
「あ、せや。それ絶対隠すなや?ワイのもんやっていう証やからな」
ウルフウッドは不敵に笑うと、ゆっくりと口付けた。
誰が、お前のモノだ。全く。
これだから、満月の夜は気が抜けない。
普段は大人しくても、本性を抑えきれなくなった狼が暴れだすからな。