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天邪鬼な言葉を並べて

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「先輩、暇です」


 立花仙蔵は、後輩の言葉に反応せず、黙々と課題を書き続けた。


「退屈です」
「滝夜叉丸は委員会みたいです」
「空からうんこが降ってきました」
「先輩のばーか」
「おたんこなすー」
「でーべーそー」


 はぁ、とため息を漏らし、仙蔵はようやく筆を置いた。


「今日は来ても相手しないと言っただろう」


 穴でも掘って来い。本の頁をめくりながら気を紛らわせるための提言をするが、当の後輩は全く聞き入れない。
 ただ寛ぐにしては度が過ぎている喜八郎は、仰向けになりながら自分の足を仙蔵の背にのせている。


「先輩なんて大嫌いです」

「そうか、なら好きな奴のところに行って来い」

「…………」


 背中に掛かる足の重さから開放されたかと思えば、喜八郎は後ろから抱きついてきた。


「行かないのか?」

「私が行くと先輩は一人で寂しいでしょう」


 寂しがっているのはどっちだ。

 仙蔵が上体をわずかに倒して顔を振り向かせると、視線がかち合う。片手で喜八郎の顎を掴む。


「……『大嫌い』、だったか? 私は嫌ってくれいる相手と一緒にいたいとは思わないんだが」


 ついと視線が泳ぐ。その様子を目を細めてみる。


「本気で嫌っているとでも思っているんですか、バカ先輩」


 ああ、素直じゃない。
 けれど、そこが可愛らしい。

 喜八郎の唇に、自分の唇を押し当てた。相手は驚いた表情を見せてから目を閉じて、ほんの少しだけ口を開く。唇の間を割って潜り込んでくる舌はおぼつかない動きで、必死に絡めてくる。
 それに驚きながらも、全身を振り返らせて、嬉しさを込めて仙蔵は応える。

 酸素を取り込もうと唇を離したときに、喜八郎のまだ物足りなそうな表情を胸の中に閉じ込めて、そっと抱きしめる。


「嫌いだと、嘘でも言ってくれるなよ」


 だって、と籠った声が聞こえる。
 こういうときくらい、素直に応えてくれれば良いのに。ひねくれたところは直りそうにない。

 彼の変わりに、仙蔵は真実の言葉を彼に送ることにした。
 甘く、優しく囁いて。


「誰よりも愛しているよ、喜八郎」


 素直な言葉を出せない彼は、きつく大好きな先輩を抱きしめた。


作品名:天邪鬼な言葉を並べて 作家名:すずしろ