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相対のチュー

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時は夕方、場所は池袋。
自動販売機や標識、果てはポストなどが飛び交う非日常。
その中を軽やかに駆けていくのは異常者で。

それを追うのも、当然異常者だった。



「イィザヤアアァァァ!!」
「なぁにー?」

ぶんと思い切り投げた自動販売機は、目標へぶつかることなく無残にもコンクリートに頭から飛び込んで転がる。
投げられた殺意をひらりと避けてみせた臨也は、ことりと首を傾げて静雄の声に応えた。

「池袋にはそのツラ見せんなって何遍言えば理解出来んだテメェ!」
「怖いなぁシズちゃん、もっと平和的に解決しようよー」
「ウルセェ死ね!!」

近場からもぎ取った標識をぶんと振り回しながら叫べば、暴力はんたーいなどと嘯いて、ただ走るだけでは物足りないかのようにくるりくるりと回転を加えて静雄から逃げていく。
苛立たしいこと、この上なかった。
本当に、自分でも異様と分かるほどに、気に入らないのだ。目の前の男が。人を愛しているのだと高らかに宣言するような、あの男が。

「人間はさぁ、大切な人を抱き締めるために前足を持ち上げたわけだよね」

分かる?と首を傾げるくせに、まるで答えを待つ気のない男は何が楽しいのか馬鹿みたいにころころと笑いながら、くるりくるり踊り子のように回ってみせる。
逃げるのなら真っ直ぐ走れば良いだろうに、臨也の逃走には無駄な動きが多い。
今のところ静雄が投げた凶器はひとつも彼を傷付けずにいるけれど、無駄な動きの分逃走のリスクは高まるはずなのに、それはまるで当ててみせろと言わんばかりだ。
静雄の怒りを煽ると分かっていて、やっているのだろう。

「なのに、ねぇシズちゃん」

くるんと回って静雄に向き直った臨也は、常と変わらず笑みを浮かべていた。
艶やかな、みにくい、笑み。
それは、慈愛に満ちた聖母の仮面を被りながら人を嘲り笑う、道化のような。

「君はその両手を、人を傷付けるために使うんだね」
「っ・・・!」

ポストが、舞う。
自動販売機が、ゴミ箱が、バイクが。手当たり次第思い切り投げつけても、ひらひらと避け続ける臨也からは笑みが消えない。

「言葉を覚えたのだって、人を愛するためだよ。人間は、人間を愛するために進化してここまで来たんだ」

言葉も、奪えない。

「ねぇシズちゃん、それはとても尊いことだとは思わない?」

にぃっと吊り上がる口唇は、紡いだ言葉を全て打ち消すかのように嘲笑う。
尊さを盲信するわけではない。ただ実しやかに囁かれている仮説を口にしてみただけ。
馬鹿馬鹿しい話だ。何処までも、本当に。
静雄の暴力を目の前にしても臨也の流暢な声は、場を弁えることなく空気を読むことなく、澱むことすらないままに重なり続けた。
まるで女が自身を隠すために化粧を重ねていくように、厚く、厚く。


「もう逃げ場はねぇぞ、臨也ァ・・・!!」
「わぁ、シズちゃん悪人面よく似合うねぇ」

いたちごっこの末にビルのコンクリートを背にした臨也は、それでもなお笑う。追い詰められているのに、追い詰めているのに、余裕を少しも奪えない。
気に入らねぇ気に入らねぇ
呪詛のように脳裏で繰り返される言葉は、実際に臨也を呪い殺すことなど出来もせずに、沸騰しそうな怒りにただ油を注ぐ。

「本当にシズちゃんは理屈が通じないなぁ。せーっかく俺が良い話してあげてるのに」
「ウルセェって言ってんだろうがぁ!!」
「おっ、と。こんな狭いところでそんなもの振り回したら、危ないって」

ぶん、と横に薙いだ標識が、酷く耳障りな音を立てて折れ曲がる。あぁあの口も折れ曲がって使い物にならなくなってしまえばいいのに。


(・・・あぁ、そうだ)

ふいに、耳障りな声を確実に聞かずに済む術がひとつ、頭を過ぎっていった。
そうだ、暴力で止められないのなら。

「シズちゃん?」

手にしていた標識を捨てるように放り投げる。空気の変化を読んだ臨也が、驚いた顔で首を傾げた。
暴力で止められないのなら、塞いでしまえばいい。
それはとても容易く、けれど臨也ですら想像しなかった方法。

「どうし、っ・・・!?」


驚きに染まった顔。
道化の仮面が外れた瞬間に、初めて折原臨也が人間だったことを知った。
作品名:相対のチュー 作家名:つみき