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余興

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「この世はさぁ、屑なんだよ」

高級そうな黒いチェアに腰掛けながら、折原臨也は不機嫌そうな声で呟いた。誰に言うわけでも、ましてや聞いてほしいわけでもなく、ただ独り言の様に臨也は呟いた。その後ろの大きな窓からは夕日の光が差し込み、部屋を朱く染め上げている。その美しい光景からは今から臨也によって吐かれる毒の気配は一切しない。
彼の持論語りは最早一種の病気の様に思えるほど、彼にとってなくてはならないものなのかもしれないと波江は不意に感じた。実際はどうであれ、自分の普段思っている事を吐き出し相手を踏みにじる事によってストレスを発散している様に、波江には見えたのだ。
始めの内は波江もそのストレス発散の様な持論語りに付き合わされうんざりしていたのだが、最近の臨也は持論をぶつけた後に必ず波江にそれについての意見を求めるようになった。それが臨也の心境の変化の表れなのか、それともただの気まぐれなのか、それを判断する術を波江は持ち合わせていない。まぁ、持ち合わせたくもないが。
少し変化が表れたと言っても臨也の持論語りが面倒な事なのには変わりなく、部屋の角、無言でパソコンのキーを叩いていた波江は本日何度目かの溜め息を吐いた。小さく「ふぅん」と返事を返すと、臨也はいつも決まってにやりと薄く笑う。これは二人の間で自然に成立した合図のようなもので、そこから臨也は漸く「波江に聞かせるため」に語り出すのだ。

「まず、法律が邪魔だよねぇ。俺は罪だとか罰だとかそんなくだらないものに縛られないありのままの人の姿、本能に捕われた人の姿がみたいのにさぁ。法律が理性の代わりになっちゃってるんだよね。本能に捕われそうになっても法律のせいで正気を取り戻しちゃう事だってあるし。あっ、でも法律云々を考えられないくらい怒り狂った人の姿を見れるって事を考えればそこまで悪くないものなのかなぁ。でもさ、法律は悪人が幸せになろうとするのを良しとしないだろう?悪人だってちゃんとした人なのにさ。そんな不平等な所が、俺は嫌いなんだよねぇ」
「意外ね、貴方にも嫌いな物があったの」
「そりゃあ俺だって人だもの。嫌いな物だってあるさ。シズちゃんだろ、それと法律に偽善者ににんじん。それから…」

薄く笑いながら臨也は嫌いな物を指折り数えていく。その指が五本目に差し掛かったところで一拍の間を置き、臨也は赤く光る瞳で波江の姿を捉えた。

「矢霧誠二」

その言葉が静かに響く。カタカタとキーを打つ音がピタリ止み、波江は不快そうな顔で臨也を見据える。あの子が貴方に何かしたの、と波江が怒りの込まれた声色で言うとそれを待っていたかの様に臨也は口元を吊り上げた。

「いいや、直接的には何も。直接的には、ね」

そのハッキリとしない物の言い方に、波江は話しても無駄だと言うように一つ溜め息を吐いて再びパソコンの作業へと戻る。このような厭らしい笑みを浮かべる臨也には関わらない方がストレスを溜めずに住む。短い付き合いだが、その程度の事は理解できた。

一方、臨也は波江の眉間に寄る皺を見つめ目を細めた。純粋に、波江が綺麗だと感じたのだ。
人はいつだってそう。無垢な笑顔よりも少し苛ついた笑みの方が、頬を伝う綺麗な涙よりも憎しみや怒りの篭った涙の方が、愛おしい。そこら辺に転がっている陳腐な愛情よりも、歪んでいる愛情の方が真っ直ぐで美しいのだ。
だからこそ、波江を綺麗だと思う反面、その綺麗な顔をぐちゃぐちゃに歪めたいと思ってしまう。怒りや悲しみや憎しみや不快感に染め上げたいと思ってしまう。そうして、弟に対する愛情もなにもかも忘れて自分の事しか考えられないようになってしまえばいい。――そう、思ってしまう。
正義の反対が悪ではなくまた別の正義であるように、愛情の反対も形を変えた愛情なのだから。

「嫌われておいでよ」
「誰に」
「今まで出会ってきた全ての人に。それとこれから出会う全ての人に、さ」

他の人に好かれて欲しくない。
他の人を憎んで欲しくない。
彼女が憎んでいいのは自分だけなのだから。
その感情を恋や愛と呼ぶのならば、その言葉はあまりにも綺麗過ぎた。

恋の代わりに独占を。
愛の代わり共犯を。


そんなレッテルが、二人にはきっと丁度良い。




作品名:余興 作家名:nago