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恋は脳の接続ミスで作られる

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青年は、いらついていた。
 とても、とても、いらついていた。

 こめかみには血管が薄く浮き出ているし、唇から呪いのように「コロスコロスコロス・・・」と機械的に呟いているのが恐ろしい。現に、居酒屋帰りなのか肩を組んだ酔っぱらい二人組が青年から2メートル離れ車道にでてまでしてやっとすれ違った。酔っぱらいとは思えないとても冴えた行動である。酔っぱらい特有の野生の勘であろうか。
 青年はここ、新宿ではそこまで名は知られていないが、池袋では彼の名はその服装と共に語り継がれてきた。
 曰く、常時バーテン姿。曰く、青の高級なサングラスを着用。曰く、長身細身で金髪。曰く、―――短気。凶暴。怪力。


 彼の名前は平和島静雄。「池袋の自動喧嘩人形」と呼ばれる男である。


 その彼が何故自分のテリトリーでない新宿の街を歩いているのかと聞けば、きっと彼の知り合いは一様に遠い眼をしつつある特定の人物を頭の中で思い描くのであろう。
曰く、容姿端麗頭脳明晰。曰く、優秀な情報屋。曰く、黒髪赤眼。曰く、―――狂気。


 その人物の名は折原臨也。新宿を拠点とする情報屋で、平和島静雄の「この世で唯一本気で殺したい相手」であった。


 折原臨也は、彼は彼で静雄の死を心の底から願っていたし、またその努力を惜しむことはなかったがそれは平和島にとって関係ない。今日彼が新宿に来たのは「自分を殺したい人間のテリトリーに飛び込んだ」わけではなく、単純に、「殺したい人間を殺しに来た」にすぎないのだから。
 普段池袋を縄張りとしている平和島が新宿に来る理由は仕事などの理由を除き大抵一つ、「ちょっとイラついたので臨也殴りに来ました」である。
 それにより新宿にいる平和島はいつもより沸点が更に低い状態なのだが・・・とにかく彼は先程述べたのと同様の理由である目的地へと歩いていた。
 そして不意ににやりと笑って立ち止まり、目の前のマンションを眺める。どうやらそこが折原の住んでいるマンションらしい。
 ゆぅらりと身体を左右にゆらし、一歩一歩、彼はマンションへ歩いていく。その度に、彼の周りの『何か』が密度をあげていく。
 そしてオートロックの扉を前に彼は一度深呼吸をし、にやりと心底楽しそうに笑って、脚を振り上げた。



 「いぃぃいぃぃいざぁああぁあや「何か用かしら」



 平和島はぴたり、と先程の表情、先程の声のまま静止した。
 彼が蹴り壊そうとしていたドアが開き、チェーンの音がちゃらりとなる。
 その上から見慣れぬ女性の顔がのぞいた。はらり、とチェーンに黒く長い髪がかかる。
 彼は開いていた口を閉じてぱちり、と一度、そしてもう一度ゆっくりと瞬きをし、きょろきょろとあたりを見渡した。

 「ここは折原臨也の家で間違いないわよ」
 「え?あ、あぁ、そうすか・・・・」

 ふしゅぅと怒りが落ち着くのを感じながら平和島はゆっくりと脚を降ろして頭を下げ、それまでずっと脚をあげていたことを思い出して急激に顔を赤くした。

 「それで、何の用なの?」
 「あぁ、いや、ノミ・・・臨也を殴りに、えと、会いに来たんすけど」

 知らぬ女性に「この部屋の主を殴りに来ました」とも正直にいえず、「仇敵の折原に会いに来た」という池袋人が顔を真っ青にして天を仰ぐか何の冗談かと失笑するような言葉を口にする彼に対し、彼女は表情一つ変えずいった。

 「アイツなら今日は戻らないわよ」
 「・・・・そう、すか」

 既に先程まで自分を覆っていた苛立ちがすっかり消えてるのを感じつつ彼は頷いた。苛立ちは消えた。仇敵はいない。そこで急速に彼の中に疑問が湧き出た。臨也の予定を知っていて、臨也の部屋にいるこの女性は一体何者なのだ。きっと奴の女ではないだろうと首をかしげる。今まで数々の女性があの性悪男に引っかかってきたのを平和島は見てきたが、彼女はそれらの女性よりとても聡明に見えた。


 黒くて髪がふるりとゆれる。きっと手でかきあげたらまるで水のように逃げてしまうのだろう。長い睫毛がゆっくり上下する。まるで蝶が羽を休めるかのようだ。あまり日に焼けていないのか肌が白い。この白がほんのりと朱に染まるところを見てみたい、と


  ッバァン


 「・・・・どうしたの?」
 「いや、何でもないっす」

 突如自分の頬を張り手にしてはおかしい音で張り倒した男を見てぴくりと彼女は眉を動かし、彼はふるふると首を振った。

 「臨也が、いねぇんなら、いいんです、有難うございました、じゃあ」
 「ちょっと待ちなさい」

 ロボットダンスのような動きで帰ろうとする平和島をとめ、彼女は「こっちにきて」とドア付近まで彼を呼んだ。
 ふらふらと覚束ない足取りで近寄った彼に、彼女はいった。

 「手を出しなさい」
 「はぁ・・・」

 いわれるがまま、手とは両手なのかそれとも片手なのかとしばし悩んだ彼は両手を彼女の前に出す。
 その手を、彼女は自身の両手でまるでおむすびでも丸めるかの要領で握りしめた。

 「?!?!?!?!」
 「明日、アイツは池袋にいくわ」

 混乱する男をおいてあくまで淡々と彼女はそのまま言葉を続けた。



 「だから、私の分も殴っておいてくれるかしら。平和島静雄さん?」



 そして、彼の方を向いて少しだけ微笑んだ。







 ここは池袋。平和島静雄の領地である。
 路地裏で、ビルの隙間から覗く月光に目を細めながら彼は煙草を吸っていた。
 今にでもあの時のするりとした、やわらかい感触が戻ってくるような気がする。
 彼は、ふぅ、と空中に煙を吐き出した。

 「あの人、・・年上だよ、な・・・・」

 少なくても下じゃねぇよなぁ、と彼は一人ごちる。

 「俺の名前、知って・・・」

 臨也が話したのだろうか、と考えて彼は踵で彼が寄りかかっていたビルを適度に蹴飛ばした。ゴギャ、と音がした。

 「・・・・・・・・・やべぇな・・」

 一人呟き、煙草をくわえ、眼を閉じた。
 名前を呼ばれた時の、あの微笑みが甦ってくる。
 彼も口元に笑みをたたえながら、ぽつりと零した。



 「惚れた」





 




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