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ドリーム・パーク/1~オープン戦編~

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球団社長の目


 ガラス越しに見える客席に、人はまばら。外野席の応援団など敵チームの方が多いくらいだ。オペラグラスを覗いてみれば、一塁側ネット裏の観客が大あくびをしているのが見えた。
「まあ……期待はしてなかったわよ」
 そう言いながらも大きくため息を吐き、ナミは椅子を引く。ここが球団関係者用のブースとは思えないような、実に安っぽい椅子だ。
 これが、我が東海ストローハッツの現状。
 オープン戦開幕からはや1週間。ナミが球団社長に就任して以来言いたい放題だった各メディアは、ストローハッツの案の定の連敗で更に風を得たと言わんばかりだ。どこぞのスポーツ誌など、球団とはまったく関係のないナミのプライベート記事まで書きたてる始末。
(覚悟はしてたけどさすがに腹が立つわね)
 いったい何に対して? マスコミに対して、首脳陣に対して、選手たちに対して、それとも自分自身に対して?
 どれも、的を得ているようで微妙に違う。ナミはきっと、見えない何かに対して腹を立てているのだ。まるで子供みたい、と自嘲する。
「負けてるわね」
「ええ」
 ニコ・ロビン。有能なる広報担当。その実力は嫌というほど知っているけれど、結局のところ、球団を売るには勝つしかない。そのために自分たちができることなど、どれほどあるだろうか?
 やることはやった。前体制において干され、2軍コーチとしてくすぶっていたシャンクスを1軍監督に据え、彼主導で主に実力のある若手をスタメンに起用、新しい風は嫌というほど送り込んだ。今年のキャンプ、ストローハッツほど練習量の多かったチームもないだろう。ナミはじめ、運営側も労を惜しまなかった。選手たちだってそうだと信じている。
「危ない賭けだと思う?」
「……」
 ナミの問いに、ロビンは意図の読めない微笑のみを返した。きっと逆の立場ならばナミもそうしただろう。ナミ含め、球団ごとが今先の見えない暗黒の中に立っている。プロ野球。スポーツ。そのフィールドの中で蠢くのは、白球ではない、人間なのだ。人間ほどわけのわからないものもない。先の見えないものもない。
「要するに、先が見えないならがむしゃらに進むしかないってわけよね」
「……確かに」
 あぁあ、とナミが思わず机に突っ伏せば、頭の上からロビンがクスクスと笑う声が降ってきた。
「何よ」
「だってあなた、そんなことを言いながら顔は案外楽しそう。まるで子供みたい」
 思わずむっとしたが、――そう、楽しそう。ということはつまり、まだ私は希望を捨ててはいないのだ。灯りはまだ見えなくとも、確かに私の中にある。きっと、他の人たちの中にも。
「だって、野球って楽しいものじゃない?」
「そうね。その通りだわ」
 だだっ広い球場を見下ろして、女2人、顔を見合わせて笑う。これが強がりの笑顔だとしても、いつか本心からの笑いになれば、この賭けは彼女たちの勝ちだ。