ビイドロに恋をする
だからと言ってこの陸軍の人手不足を補うには、少なくとも動ける者が出陣しなければいけない。
爆音の中、俺は進む。
【 ビイドロに恋をする 】
体中が熱く焼けるような感覚に、被爆したのだと知った。目の前を閃光のような炎が覆ったと認識した直後には、この全身の痛み。被爆して暫く気を失っていたのだろう。
ドクンドクンと脈打つ血潮に己の精を感じる。
あぁ、なんて無様なんだ。また生き長らえてしまった。
神のために燃え尽きて散る命だと言うのに。
うっすらと重い瞼を上げると、ぼやけた視界が広がった。
「おい、大丈夫か!」
空から声が降りかかる。霞む視界で声の主を捉えようと試みると、綺麗な綺麗な二つの蒼色が目にとまった。空のような、海のような、ガラスのような、見たことの無いけれどどこか懐かしい蒼色。
「今水を飲ませてやるから!」
そう言って水筒の口が薄らと開いただけの口にあてがわれ、丁寧に水が流し込まれる。特別冷たいわけでもないぬるい水だったけれど、全身が焼けるような痛みを感じる俺には岩清水のように感ぜられた。
こくり、と小さな音を立てて飲み下すと、男は安堵したように微笑んだ。蒼色がかすかに色を変える。
「なん、で・・・」
消え入りそうな掠れた声を彼に投げかける。
彼は先ほどまで戦っていた米軍で、俺は大日本帝國軍。討つべき敵である俺に、どうして情けをかけるのか。
「せっかく神様が残してくれた命なんだ、怪我人を手当すんのは当然だろ!」
神様が残してくれた命、彼は確かにそう言った。
綺麗な蒼色を丸々とさせて。
「違う・・・僕の、いのちは・・・」
神のために死に損なった命なんだ。
けれどあまりにもその米人の瞳が綺麗で、真っ直ぐで、その言葉を口にすることはできなかった。
あぁ、そうだ。
彼の瞳はビイドロに似てるんだ。