蜂起せよ、臥せし神獣
※日,清.戦/争後。
前半、にーにが卑屈屋です。
ろたまがちょいS。
――君はその程度なのかい?
【蜂起せよ、臥せし神獣】
東の小さな島国が、仮にも亜細亜の大帝国と謳われた“眠れる獅子”を破った――
かねてより獅子に手をこまねいていた欧米列強は、これ幸いと瀕死の国に手を伸ばした。
そんな中の、ある日。
「こんにちは♪」
「…………。」
「やだなぁ、無視?」
「……うるせぇある……」
「あはっ、なんだ起きてるじゃない」
よく整理された部屋の正面、天蓋つきのベッドに沈み込む包帯だらけの人に向かって、白い青年――イヴァンが微笑みながら歩み寄った。
横に腰掛ければ、その人は不快そうに眉根を寄せる。
「……我に、何か用あるか……。我にはもう何も、」
「別にこれ以上何か取ろうなんて思ってないよ?ただ、耀くんの顔が見たかっただけ」
「物好きあるね……お前は」
フッと耀の上に影が落ちる。
瞬きをし、改めて状況を確認すれば、自分の目の前にイヴァンの顔があった。
相も変わらず、紫の瞳を細め楽しげに笑っている。
「ねぇ」
耀は何も言わずにそれを見上げる。
イヴァンは更に笑みを深くした。
「僕のものになってよ」
ふふ、と笑いを零しながら、額を寄せ耀のそれと軽くぶつけた。
不満気な顔をしていた耀は、そのうち視線を逸らして呟いた。
「……好きにすれば良い」
その言葉に、イヴァンの瞳から一瞬笑みが消え失せた。
だが、すぐにまた微笑む。
「冗談だよ。ほら、包帯換えてあげるから」
差し伸べられた自分より大きな手を見、耀は素直に手を差し出す。
ぐいっと引かれ、細い体が起き上がった。
後ろを向いて、深い紺色の布で織られた衣服の紐に手をかける。
そのまま、下に着ていた袖の短かな白い服の拘束も解き、するりとそれらを背から降ろした。
露わになったのは、血の滲んだ痛々しい包帯。
イヴァンは後ろで留めてあった白を解く。
背中に深々と刻まれた刀傷を一瞥し、すぐに傍にあった真新しい白を巻いた。
その間、耀は微動だにしなかった。
「……はい、終わったよ」
耀はそれを聞き、シュ、と衣擦れの音をたてながら、二枚の衣を改めて身に纏った。
そんな背中に、イヴァンが独り言のように言う。
「……あーぁ……。簡単に背中見せちゃったりして、随分と従順なんだねぇ……」
肩越しに耀はイヴァンを見た。
その表情は、言葉通り残念そうというより、むしろ軽蔑するような眼差しだった。
「何が言いたいあるか」
「んー……?そうだねぇ、強いて言うなら――」
首を傾げ、目を細めて、イヴァンはまた笑った。
「――弱い耀くんなんて人、僕は知らないよ」
「……!?」
驚き目を見開く耀をよそに、イヴァンは立ち上がり、まるで演技でもするかのように喋りだした。
「あぁ、僕の知っている王耀という人は、触れようとすれば手を払い、会話をしようとすれば断り、もし地を荒らす者があれば慈悲なく叩き潰す人だった!だけどそれでいて、気高く美しく、内に優しさを秘めた憧れの人だったのに!」
くるくると舞い、その足は寝台の正面で止まった。
そして、耀に振り向きながら続きの『台詞』を言った。
「哀しきかな、その人はどうやら“死んでしまった”らしい」
再び背を向けると、イヴァンは扉に向かって歩みだした。
しかし、その口からは溢れるように言葉が紡がれている。
「もう僕が彼へと続くこの途に着く意味は無くなってしまった。あぁなんて哀しいんだろう!でも、僕は彼が“死んだ”とは思えない、きっと何処かへ行ってしまっただけなんだ……。さて、何処へ行ったのだろう?だったら探さなきゃ――」
そう言って、イヴァンがドアノブに手を掛けた。
「――待て!!」
呼び止める声に、彼は振り返る。
視線の先には、先程まで虚ろな目をしていた耀が、確かに琥珀の双眸で自分を見ていた。
「……何か?」
よそよそしく対応するイヴァンを軽く睨むようにして、耀は低く咆哮した。
「そこまで言うなら――良いある、我は今一度二の足で立ってやるあるね……!」
ぐしゃりと柔らかな布団を握り締め、耀は更に宣言する。
――獅子は、これより新生すると。
「お前の力を貸せ……イヴァン……!」
名を呼ばれたイヴァンは、満足気に微笑み、それに応えた。
潰えぬ、不屈の炎よ。
「……喜んで。」
fin.
前半、にーにが卑屈屋です。
ろたまがちょいS。
――君はその程度なのかい?
【蜂起せよ、臥せし神獣】
東の小さな島国が、仮にも亜細亜の大帝国と謳われた“眠れる獅子”を破った――
かねてより獅子に手をこまねいていた欧米列強は、これ幸いと瀕死の国に手を伸ばした。
そんな中の、ある日。
「こんにちは♪」
「…………。」
「やだなぁ、無視?」
「……うるせぇある……」
「あはっ、なんだ起きてるじゃない」
よく整理された部屋の正面、天蓋つきのベッドに沈み込む包帯だらけの人に向かって、白い青年――イヴァンが微笑みながら歩み寄った。
横に腰掛ければ、その人は不快そうに眉根を寄せる。
「……我に、何か用あるか……。我にはもう何も、」
「別にこれ以上何か取ろうなんて思ってないよ?ただ、耀くんの顔が見たかっただけ」
「物好きあるね……お前は」
フッと耀の上に影が落ちる。
瞬きをし、改めて状況を確認すれば、自分の目の前にイヴァンの顔があった。
相も変わらず、紫の瞳を細め楽しげに笑っている。
「ねぇ」
耀は何も言わずにそれを見上げる。
イヴァンは更に笑みを深くした。
「僕のものになってよ」
ふふ、と笑いを零しながら、額を寄せ耀のそれと軽くぶつけた。
不満気な顔をしていた耀は、そのうち視線を逸らして呟いた。
「……好きにすれば良い」
その言葉に、イヴァンの瞳から一瞬笑みが消え失せた。
だが、すぐにまた微笑む。
「冗談だよ。ほら、包帯換えてあげるから」
差し伸べられた自分より大きな手を見、耀は素直に手を差し出す。
ぐいっと引かれ、細い体が起き上がった。
後ろを向いて、深い紺色の布で織られた衣服の紐に手をかける。
そのまま、下に着ていた袖の短かな白い服の拘束も解き、するりとそれらを背から降ろした。
露わになったのは、血の滲んだ痛々しい包帯。
イヴァンは後ろで留めてあった白を解く。
背中に深々と刻まれた刀傷を一瞥し、すぐに傍にあった真新しい白を巻いた。
その間、耀は微動だにしなかった。
「……はい、終わったよ」
耀はそれを聞き、シュ、と衣擦れの音をたてながら、二枚の衣を改めて身に纏った。
そんな背中に、イヴァンが独り言のように言う。
「……あーぁ……。簡単に背中見せちゃったりして、随分と従順なんだねぇ……」
肩越しに耀はイヴァンを見た。
その表情は、言葉通り残念そうというより、むしろ軽蔑するような眼差しだった。
「何が言いたいあるか」
「んー……?そうだねぇ、強いて言うなら――」
首を傾げ、目を細めて、イヴァンはまた笑った。
「――弱い耀くんなんて人、僕は知らないよ」
「……!?」
驚き目を見開く耀をよそに、イヴァンは立ち上がり、まるで演技でもするかのように喋りだした。
「あぁ、僕の知っている王耀という人は、触れようとすれば手を払い、会話をしようとすれば断り、もし地を荒らす者があれば慈悲なく叩き潰す人だった!だけどそれでいて、気高く美しく、内に優しさを秘めた憧れの人だったのに!」
くるくると舞い、その足は寝台の正面で止まった。
そして、耀に振り向きながら続きの『台詞』を言った。
「哀しきかな、その人はどうやら“死んでしまった”らしい」
再び背を向けると、イヴァンは扉に向かって歩みだした。
しかし、その口からは溢れるように言葉が紡がれている。
「もう僕が彼へと続くこの途に着く意味は無くなってしまった。あぁなんて哀しいんだろう!でも、僕は彼が“死んだ”とは思えない、きっと何処かへ行ってしまっただけなんだ……。さて、何処へ行ったのだろう?だったら探さなきゃ――」
そう言って、イヴァンがドアノブに手を掛けた。
「――待て!!」
呼び止める声に、彼は振り返る。
視線の先には、先程まで虚ろな目をしていた耀が、確かに琥珀の双眸で自分を見ていた。
「……何か?」
よそよそしく対応するイヴァンを軽く睨むようにして、耀は低く咆哮した。
「そこまで言うなら――良いある、我は今一度二の足で立ってやるあるね……!」
ぐしゃりと柔らかな布団を握り締め、耀は更に宣言する。
――獅子は、これより新生すると。
「お前の力を貸せ……イヴァン……!」
名を呼ばれたイヴァンは、満足気に微笑み、それに応えた。
潰えぬ、不屈の炎よ。
「……喜んで。」
fin.
作品名:蜂起せよ、臥せし神獣 作家名:三ノ宮 倖