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東の空で、横恋慕。

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※冷戦下、東ドイツでの話。ギル視点。





民主制、なんて名ばかり。
議会も言論も、全てが都合の良いように統制され、自由などとは無縁の国。
それが、今の俺。

「やってらんねーよ、まったく……」

『壁』に寄り掛かり、空を見上げる。
この世の象徴、絶望の証。
その向こうに居るであろう、フェリちゃんやロディの坊ちゃん、それにヴェスト……ルッツを思い浮かべる。

沈んだ寒空から、白い綿雪が落ちてきた頃。
――その珍客はやって来た。



【“東”の空で、横恋慕。】



「おい」
「うぉあっ!?」

突然声を掛けられる。
注意が散漫になっていた俺は、思わず素っ頓狂な声をあげた。
慌てて視点を地上に戻すと、そこには一人の人物が居た。
コートにマフラー、帽子に手袋と重装備だが、小柄な背と黒い髪、琥珀色の瞳で、すぐに判断がつく。

「な、なんだよ驚かせやがって……。耀じゃねぇか。俺様に何か用か?」

すぐに質問には答えず、じっと俺を見た後、平然と耀は言った。

「……不是(いいや)、単なる暇つぶしあるよ」
「ぐへ、なんだよそりゃ……」

がくりと肩を落とす。
ここまで需要が無いと、いっそ諦めの境地に達しそうになる。
くそー、と言っていると、本当に暇そうに辺りを見回していた耀が、突然踵を返して歩き始めた。

「おィィ!俺様を無視すんのかよ!」
「じゃあ暇つぶしに付き合うある」
「……は?」
「別に相手は誰でも良いあるね。丁度良いから付き合うよろし」

そうして、俺は耀の“暇つぶし”とやらに付いて行くことになった。

*

街をふらふらと回っては、気になった店に立ち寄り、買い物をするでもなく見て回って出て行く。
途中で物を買って食うことはあったが、本当にただの暇つぶし、散歩であった。

やがて教会へと行き着くと、耀は迷わずその扉を開き、中へと歩を進めて行った。

火は灯されているものの、やはり季節柄、中は冷え込んでいる。
通り過ぎるシスターに軽く挨拶をしつつ、ゆっくりと中央を進んでいく耀を追いかけた。
見上げる先には、色とりどりのステンドグラスと、天使たちと聖母の像がある。

「綺麗だろ」

根っからそういうものに傾倒している俺は、自然と賞賛の言葉が口を突いて出る。
耀はそれらを見上げて、ぽつりと呟いた。

「……まぁな」

真意を図りかねて、俺は首を傾げた。
すると、またしても耀は突然踵を返し、俺の横を通り過ぎて扉を目指していった。

なんだか、よく分からないヤツだ。

*

街の中央の広場、そこまで来て、耀は適当なところに腰を下ろした。
俺も、その横に座る。

「……暇だな」
「そうあるね」

しんしんと雪が降り注ぐ。
寒さから人通りは少なく、車だけが忙しない。
しばらく、会話も無かった。

ふと、耀が横を向く。
視線の先には鳥が居て、何処かへ渡る途中なのだろうか、留まっていたのはほんの僅かな時間で、すぐに曇天の彼方へと飛び立って行った。

名残惜しそうにその後を見つめる耀。
でも、やっぱり何を考えてるのかは分からない。

「……ていうか」

俺は思い出したように口を開いた。
今日、ずっと疑問に思っていたことを聞いてみる。

「お前、此処に居て良いのかよ?」

振り向いた耀は、一瞬疑問の表情だったが、すぐに訳が分かったらしく、僅かに微笑んだ。

「イヴァン、あるか?」
「そ。アイツ、お前が居なかったら探すんじゃねぇの」
「んー……。まぁ、そうかもしれねぇあるな」
「悠長なヤツ……。この状況でしょっぴかれんの、俺だぜ?」
「怖いあるか」
「馬鹿言うな」

すっと立ち上がり、耀は再び歩き出す。
俺が後から立ち上がったのを確認すると、足を止めてこっちを振り向いた。

広がる白い景色に対して、黒を含んだ耀はいささか目立ちすぎるくらいで、なんだか――

「お前のようなヤツが居るから、世界は面白いある」
「……なんだよ、いきなり」
「この統制も、永遠には続かないってことあるね」

……コイツ、自分が“紅の同志”だというのに。
今……自分でその天下を否定しやがっただと……?

俺は、ますます訳が分からなくなっていた。
耀は――何を考えている?

小国の俺が及ぶところでは無いのだろうが、とにかく、気になる。
混乱する俺を見透かしたように、今度は目に見えて耀は微笑んだ。

「深く考える必要なんかねーあるよ。我は、ただ将来について考えてみただけある」

耀が目を閉じ、再び開けた時。
その瞳が宿していたのは、射抜くような、光。

「……這い上がって来い、ギルベルトよ」

――なんだか、美しかった。

俺はすっかり耀に釘付けになっていた。
特別に彼が着飾っていたわけでもなく、何か演出があったわけでもない。
言うなれば、きっとそれは錯覚なのだ。

「auf Wiedersehen.」
(ドイツ語……!)



気付いた時には、耀は広場の階段を降り、車を捕まえて何処かへ帰ろうとしていた。
たぶん、アイツの元へ。

先の態度から推測するに、その好意を受け取ってはいるが、自分からは何もしていない――求められる分だけ、与えているに過ぎない――といった感じだろうか。

冷えた態度の裏、言葉の端々に隠された灯り。
その理由が、彼が、知りたい。

言葉の真意を探るなど、最初から無意味だったのかもしれない。
思えば、どうでも良さげな態度の奴にわざわざ付いて行くなんて、相当の物好きだ。

「……なんだ、結局そうなのかよ」



いつか彼を見た日から、俺の横恋慕はとうに始まっていたらしい。



fin.
作品名:東の空で、横恋慕。 作家名:三ノ宮 倖