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もう初夏だというのに

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―――沖田―――

 もう初夏だというのに、外は雨で、今は少し寒かった。
 寒くて、寒くて、寝間着の肌蹴たのも厭わずに神楽が背に縋りついてきた。

 「どうしたんでィ?」

 「別に。何にもないネ」

 何もないという顔ではなかった。
 二人で逢うようになってから神楽はときどきどこか暗いときがある。
 大方、万事屋の誰かに怒られでもしたのだろう。
 銀時に知られたとき、彼は酷く怒っていた。
 そして「子供に手を出すな」とか、「ロリコンか」とか、「うちの神楽ちゃんに何してくれちゃってんの?」と散々言われたけれど、「自分だって土方とできてるくせに。バラしてもいいんですかィ」と言ったら大人しくなった。

 「心配しなくても文句なんて言わせやしねえよ」


 そう言って薄く笑っても神楽の表情は曇ったまま。



―――神楽―――

 「どうしたんでィ?」
 「寒いネ」
 「ああ、雨が降ってるからかな」
 「うん」

 夕方、家を出るとき銀時に掴まった。
 そして何処に行くんだと訊ねられた。
 ちょっとそこまで、と言って嘘をついた。
 本当は沖田に逢いに行くのだと素直に言えなかった。
 (だって言ったらきっと銀ちゃんの眉間には皺がよる)

 沖田と二人きりで会うようになってから、銀時が遠くなった。
 まるで心のよりどころがなくなったようでとても淋しい。
 故郷を離れ一人で異国(とつくに)やってきた自分を広い胸で受け入れてくれた人間。
 彼が後ろに立っていないと、酷く、寒い。

 だから神楽は一生懸命沖田にくっついた。
 きっと暑いだろうに沖田は何も言わなかった。
 ただ無言で神楽の行動を受け入れる。
 こんなときの沖田は、いつもより少し優しい。






 沖田がいてもなお、神楽の心の隙間が埋まらないことを知っているかのように――
作品名:もう初夏だというのに 作家名:紺屋町