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We all fall in love !

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「なっ………」
居間のドアを開けると、臨也と静雄が抱き合ってキスする寸前だった。
「えええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!!!」
前触れもなくそんな光景を目の当たりにしてしまった新羅は、とりあえず心の底から絶叫した。

***

「あれ、新羅、いたの?」
「なんだ新羅、いたのか」
一旦顔を離した二人が新羅に向かって言う。かなり酔っ払っているのだろう、二人とも呂律が怪しい。
「なっ、なんで、どうして………き、君たちってそういう関係だったの!?」
激しく混乱し、おろおろしながらも新羅はそう尋ねた。

自宅の居間のドアを開けると、ソファーに座る静雄に向かい合うようにして、臨也が静雄の膝の上に座っていた。……それだけならまだ、臨也が静雄の首を絞めているところだと考えることもできる。むしろこの二人の場合、その可能性が格段に高い。
ただ、確かに首は首なのだが、静雄の首に回されているのは臨也の両手ではなく両腕なのであって、静雄の両腕もまた臨也の細い腰に回されていた。付け加えて、ほんの数センチしか離れていない彼らの唇。ついでに言うと、真横からというベストショットでの目撃。

―――完全にアウトだ。

そして、この場で最も重要であると思われる新羅の質問に、臨也と静雄は平然と答えた。
「そういう関係、って……そうだけど?」
「何か文句あんのかよ、新羅」
己の同級生たちのその言葉を聞いて、新羅は完全にパニック状態に陥る。

―――学生時代から怪しいとは思ってたけど!
―――マジで!? ガチなの!? いつから!?
―――えっと、整理すると、今夜は僕の家で珍しく静雄と二人で飲んでるところに臨也がふらっとやってきて、てっきり大戦争になるだろうと泣きそうになったら、案外二人とも口ゲンカはしても互いに手は出さなくて、えっとそれで、雑談しつつも二人が仲直りするよう僕がそれなりに場を和ませて、それで僕が今ちょっとトイレに行って戻ってきたら、このありさま………

それで!? 僕が仲良くさせたせい!? それでこんな展開になっちゃったの!? えっ僕が悪いの!?

いや、違う違う違う!彼らは『そういう関係』だと認めた。つまり、酔った勢いで(どういう種類の勢いかはさっぱり分からないけど)キスしようってなったわけじゃない。うん、とりあえず僕は悪くない。

―――でも飲み場所を提供して仲を取り持った挙句、現実世界で悪夢を見せられるなんて、理不尽すぎる!
―――ああ、セルティが仕事に出ている夜でよかった! こんな危険な光景、彼女には絶対に見て欲しくない!

新羅は、自分は同性愛に理解がある方だと思っている。何せ、自分の愛する恋人は人間ですらなく、あまつさえ首なしなのだから。
だがしかし、よりにもよって、あの臨也とあの静雄である。しかも前振りなしで、唐突にキスシーンである。

―――結構本気で怪しいとは思ってたけど、これほど思い切ったことをやられると、さすがに……

呆然自失とした新羅の前で、密着したままの臨也と静雄が話し始める。

「シズちゃん、新羅はいいから俺のこと見てよ」
「あぁ、悪ぃな臨也」
「まさか……シズちゃん、新羅のことが好きなの?」

―――何で!? どうしてそうなるの折原さん!?
さらなる打撃を加えられた新羅の心中の訴えを無視して、二人は互いに両腕を回したままべたべたとした雰囲気で続ける。

「ばか、何言ってんだよ……俺が好きなのは、臨也だけだって」
「ほんと?シズちゃん普段あんまりそういうこと言ってくれないから、嬉しい……俺もシズちゃんのこと好き。愛してる」
「ああ、俺も愛してる、臨也」

―――何故だ。何故私がこんな目に遭わなければならないんだ……!

新羅はやりどころのない憤りを覚えつつも、どうにか多少の落ち着きを取り戻した。落ち着いたといっても、酔いのせいだけではなく頭がぐるぐるとして、気分は最悪だ。彼らから発散される甘ったるいムードに本気で吐き気を催していると、再び臨也と静雄の唇が接近し始めた。それを見た新羅は慌てて大声を上げる。

「わかった! 君たちの愛は痛いほどよくわかったから! だからその、そういうことは出来れば余所でやってくれないかな!? ね!?」
何て謙虚な台詞なんだ、と新羅は自賛する。だがその言葉に、酔っ払って目元を染めた臨也がまたしても爆弾発言をかます。

「何、新羅、俺たちの邪魔するつもり?……まさか、新羅の方がシズちゃんのこと好きとか?ひょっとして、あの黒バイクは俺に対するカムフラージュだったの?」
新羅を睨みつけながらそう言って、臨也は袖口から小さなナイフをキラリと覗かせる。

―――馬鹿だ! この人ただの馬鹿だよセルティ!

本気で泣きそうになる新羅を見て、こちらも目元を染めた静雄が悲しそうに続ける。
「悪いな、新羅。俺には臨也がいるから……あと、そういう関係はセルティが可哀そうだ。あいつはいい奴だ、ちゃんと大切にしてやってくれ。な?」

―――良い人だ! こっちは普通に良い人だよセルティ!

もはやどこからどう突っ込んでいいのか分からない新羅は、ぽかんと口を開けて黙り込むしかなかった。するとその隙を見逃さず、静雄の膝の上に乗ったままの臨也が再び『恋人』の方へ向き直る。

「シズちゃんは優しいね。大好き」
「うるせぇ……手前も、嫉妬とかしてんじゃねぇよ」
「シズちゃんが可愛いのが悪いんでしょ」
臨也の右手が静雄の頬を愛おしそうに撫でると、静雄は恥ずかしそうに目を逸らした。

―――いくら酔ってるとはいえ、こいつら……!
―――駄目だ。現代医学では解明できない原因不明の発作で、今夜私は死ぬかもしれない。ごめんよ、セルティ、死んでも愛してる。

「ほら、シズちゃん、こっち向いて……」
「臨也……」

完全に存在を無視された新羅の前で、再度臨也がゆっくり、ゆっくりと自身の唇を静雄の唇に近付けていく。

「あ……あ、あ…………」
―――嫌だ、見たくない。でも止めたら、今度こそ臨也のナイフが飛んでくるだろう。いや、静雄がいきなりキレて、テーブルが飛んでくるかもしれない。
そうだ、見なければいい。この部屋から逃げ出して、ベッドで布団を被ってセルティの帰りを待てばいい。
―――だがどうしてだ、体が動かない、眼球さえ動かせない。もうあと10センチ程でくっついてしまう二人の横顔から目を逸らすことができない。

―――こ、これが、怖い物見たさというものなのか!?

視線は二人にロックされたまま、新羅の右手だけが動く術を得たように白衣のポケットへと滑り込み、携帯電話を掴み出すと愛しい女性の番号を呼び出した。セルティに電話をしたところで彼女に返事など出来ないことは明白だったのだが、脳内がスパークし切った新羅は完全にそのことを失念していた。

「あああ、ああ…………」
臨也と静雄の唇が尋常ではない距離にまで近付くのを見ながら、新羅は発信ボタンを押し、携帯を彼の右耳へと押し当てる。
―――あと3センチ、2センチ、1センチ、ああ、そして…………

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん助けてセルティーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


―――岸谷宅の夜は、まだまだ終わらない。
作品名:We all fall in love ! 作家名:あずき