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貴方を好きになってごめんなさい

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1.〔晴れ、のち天使〕

 この世界は大きな大陸が四つ、そのそれぞれに多種多様な種族が暮らし部落や国を造り、独自の文明を成していた。
ただ、『ギルド』とよばれる仕組みは、この世界のどこの国にも存在している。
ギルドとは、その地域の人々が抱える問題を解決する手段のひとつに属し、ギルドに依頼すれば、登録している戦士、魔法使い、固有の民族が依頼に課せられた報酬を目当てに、その依頼をこなしてくれるというものを指し、広く利用されている。
組織するのも簡単で、各村、町などわりと小さな部落であっても運営することは可能である。よって、この世界にギルドは星の数ほどあるが、すべてのギルドに寄せられる情報は四大陸の中心地点の空に浮かぶ島に存在する大陸共通法立法機関の中枢である中央庁を経由して共有されている。

 このお話は、このように整えられた世界のほんの小さな出来事である。

 横を見れば、ただ広がる草原、人々が行き来したことでできる土が顔を出した道を黒い馬が一頭、眼前の遥か遠くに小さく見える港町を目指して、ゆったりとその歩幅を進ませていた。その馬が引く小さな貨車で空を仰ぎながらギルベルトは大きな欠伸をひとつし、白金色の髪をけだるそうに掻いた。
 彼、ギルベルト・バイルシュミットは西の大陸最西端一帯を旅する人間の戦士、と位置づけられる。しかし、旅を始めて二月、未だギルド登録をしていない彼は、所謂『放浪者』と呼ばれる存在だ。
 放浪者はギルドから依頼される依頼を、登録し正式に戦士としての認可が得られるまでは受けられない。だが、直接村人や辺境のギルドのない地域で暮らす人々から受ける依頼は、その個人の責任の範囲内において、よしとされている。
 ただ、それは極端に依頼数が少なく、生計を立てていけるほど報酬も高くはないことが多い。彼は次の町で生活のためにもギルドに登録する必要があった。
「腹、減った」
そういえば昨日の昼以来、何も口にしていない。自らの腹部に手を当てながら早く港町につくことを祈って青い空を眺める。ここは空腹との戦いを避けるという意味でも、もう一眠りするべきだろうか。
 彼の上空に東の方角から鳥が一羽飛んでくる、高度はあるが結構なでかさ、これはあれを食えという天の助けかと、まだ眠いまなこを細める。だが彼が所持している武器は飛び道具ではなく剣、旅立つときに一番自分が愛用していた相棒だ、いくら空腹だからといって、乱暴に上空に向かって投げたりなどしない。
「運がよかったな、鳥」
などと聞いてもいないであろう遥か空高く浮かぶ鳥に話しかける。
 しかし鳥の様子が変だ、先ほどからこの辺りを飛んでいるが羽の動きがぎこちない、うまく風に乗れないでいるのか、と不審に思っていると、自分の真上に来たところで、だんだん鳥がでかく…
「なあっっつ?」
落ちてくる、と感づいた頃には空きっ腹に衝撃が走った。防具をしているとはいえ突如起こった痛みに目を閉じ、顔を顰めてから状況確認のために目を開けると、度アップで大きな瞳の少女とも少年ともつかない童顔で視界がいっぱいになる。
 どうやらそいつも混乱状態にあるらしい、人の上にまたがったまま色白の顔を青くしている。
「おい、」
「っあ、や」
 華奢な腕を掴むとビクリと過剰に反応されて、こっちも少し驚いてしまう。見た目は人間と大差ない、決定的に違うのは遠目ではわからなかった、光を放っているように透けている大きな羽。魔法使い?いや彼らは人間であって自然をある程度操作できるくらいだ、飛べて羽が生えるなど聞いたことが―――
 ギルベルトは自分が思い出した種族にそんなことの可能な種族をひとつだけ思い出した。しかし聞くと見るとでは随分と容姿が違う。
「エルフか?」
音にした言葉を理解できた目の前の存在は、それを聞くと、目を見開き、ギルベルトの手から逃れようと細い腕を振って抵抗したが力の差はどうにもできずギルベルトの手は外れない。しばらくすると光る羽は弾けたように姿を消した。それに眉を下げ、悲しそうにふるりと睫毛をふるわせる。
「ふっうぅ」
ぽたり、とギルベルトの腕に彼の涙が落ちる。
「な、なんで泣くんだよっ」
自分はクッションがわりになってやったというのに、助けたお礼を言われるどころか、口を開いた瞬間怖がられて抵抗されて泣き出されてしまった。元来ギルベルトは慰めるとか、そういう類のことが大の苦手だ、どうしていいのかわからずにイライラを募らせてしまう。
困ったように空いたほうの手をああでもないこうでもないと彷徨わせていると、それに気がついたのか口を開いた。
「貴方人間ですよね、私を売り飛ばすんですかっ」
「売り飛ば、って確かに金には困ってるけど、会って間もなくてこっちだって何にもわかんねえのに、そんなひでえことできねぇよ」
というか俺がエルフを知ってただけでそんなひでえことするヤツに見えるのかよ。と機嫌を悪くするが、当のエルフは俺が害のないことを理解すると涙をピタリと止めて、こちらを伺うように大きな黒い瞳を瞬かせて見上げてくる。ところで、
「お前いつまで俺様の上に乗ってるつもりだ?」
「え、ひゃあああすいませんっ」
と、今まで気づかなかった自分を恥じるように頬を染めて慌て出すが、ここは荷台の上、寝るスペースは俺ひとり分くらいしか空けてなかったので当然のことながらどうしていいかわからない、といったように相変わらず俺の腹に馬乗りになったまま、涙で目を潤ませたままギルベルトを見てくる。
(こいつめちゃくちゃ可愛くないか?)
 改めてまじまじと見れば、見事な双黒に同じ色のサラサラとした短めの髪は清潔感が漂い、白い肌は肌理が細かく、触れている腕からは柔らかさと暖かさが伝わってくる。目線を合わせるのを恥らってか目を伏せたことで長い睫毛が瞳に影を作るほどで、袖のない服と短いズボンにブーツを履き、防具すらまともに付けていない肢体はとても頼りない。
こいつは飛んでいたからこそ人間の住む一帯を移動しても、今まで何事もなく無事だったのかもしれない、と思った。人間が誰しもギルベルトのようにひどいことをしない、と言い切れる存在ではないことは、ヒトである彼本人が一番よく知っている。
「本当に、運がよかったなお前」
「はい?」
ギルベルトの思いなど知るはずもない菊、と名乗った彼は、里から飛び続けてきたはいいが、魔力を使い果たしてあえなく落下したことを説明し、助けてもらったことに丁寧に頭を垂れた。行くあてもない菊が次の港町までギルベルトに同行する許可を求め、それを無碍にもできず、一緒にこのまま馬に引かれることになるのだが、狭い荷台で、二人っきり、というギルベルトのあとの心労は察するに余りある。
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