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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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 もちろん、当時は自惚れていたせいもある。一人で何でもできると過信していた。そんなオルハに、協力の大切さや自由と自分勝手の違いを教えてくれたのは、ランディやイチコを始めとするたくさんのガーディアンズたちだった……。
 オルハは、歩きながら空を見上げた。
 広い空を飛ぶ鳥のように自由になりたいと、素直に思いながら。

 オウトクシティまでは二時間ほどで到着した。支部に向かう途中、不意に思い出して携帯用端末を取り出す。偵察中に鳴ったり震えたりするのは困るので、定時通信の時以外は電源を落としていたのだ。
 電源を入れると、ガーディアンズの友達たちから何件か連絡があった。どれも特に重要な話ではない。10件以上の録音されたメッセージを聞いている最中、いきなり端末が鳴りだした。
「うわ! ……はいはい」
「あ、つながった。こんにちは、イチコだよー。極秘任務中だって言うからつながんないと思ってたー」
「うん、電源入れたの今なんだけどねー」
 笑顔でその声に答える。イチコが持つ空気感に癒されて、ついつい顔がほころんでしまうのだ。
 ……ん? ちょっと待って。
 昨晩会った時、どんなやりとりをした?
 イチコはオルハが極秘任務に就いている事は知らない素振りだったし、ちゃんと誤魔化したはずだ。仮に彼女がオルハの言動がおかしいと思ったとしても、事実を調べる事は不可能なはず。そうでないと"極秘"の意味が無いし、そもそもそういう疑いを持つようなタイプの人間ではない事もオルハは知っている。
「 ……ってちょっと待って! なんでイチコがそれを知ってんの!?」
「その事で詳しい話がしたいから支部に来てよ、って言うつもりだったんだよー」
「あー、分かった! 増員するってイチコの事だったんだ?」
「え? そうなの? 私も今聞いた所なんだけど……?」
 イチコの声は明らかに不思議そうだったが、オルハはそんな細かい事は気にしない。
「今向かってる所だからもうすぐ着くよ。じゃあまた後でねー!」
 ……ほんとに人が悪い。イチコが来るのなら最初からそう教えてくれればいいのに……。
 オルハはちょっとウキウキしながら、軽い足取りで支部へと入って行った。

「ごめんね、なんだかややこしい事になっちゃって」
 言いながら彼女は頭を下げた。
「ほんとは、一人だけ増員するつもりでファビアを呼んだんだけどそれを忘れちゃってて、イチコにも任務を依頼しちゃったの。ごめんね、私ってドジだから」
 オルハは「はぁ」と、限りなくため息に近い気の無い返事をしながら頷いた。別に呆れているわけではなかったが、「この人ほんとにドジなんだなぁ」と妙に納得したらしい。現実は現実と受け入れたと言うほうが正しいかもしれない。
「……では、改めて御挨拶をさせて頂きます」
 二人の顔を見ながら、ファビアが微笑みながら右手を差し出して、口を開いた。
「はじめまして、オルハ、そしてイチコ。ファビア・アルティウスです。氷系のテクニックを得意とするフォースです」
 グラールではテクニックの行使に長けた人間、特にガーディアン内では"フォース"と呼称する。その語源などはすでに歴史の闇に埋もれてしまっているが、人々は敬意と恐怖をこめて彼らをそう呼んでいた。
 オルハとイチコは差し出されたその手を順に握り返しながら、挨拶をし返した。
「はじめまして、イチコだよ。こちらこそよろしくね!」
「ボク、オルハ・ゴーヴァ。よろしくね!」
 ファビアはなんとなく、この二人は似てると素直に思った。外見も服装もまるで違うのだが、空気感というか雰囲気が似ている。恐らく本質が似ているのだろう。
「じゃあ、任務について詳しく説明するね」
 彼女は席を立ち、壁のディスプレイに向けてリモコンを操作した。すぐにオウトクシティ周辺の地図が現れる。その地図に、まばらに赤い点が広がった。
「この点が、"カマイタチ"の被害があった場所なの。かなり広い範囲なんだけど……よいしょ」
 彼女は言いながらリモコンのスイッチを押す。途端に画面が消えた。
「あれ? ごめんね、私ってドジだから」
「はぁ」
「はぁ」
「はぁ」
 三人の声がハモった。みんないろいろ分かってきたらしい。
「……で、これなんだけど、最近一週間で起こった点だけを表示させると、こうなるの」
 映し出された赤い点は、オウトクシティ近辺から、オウトク山を結ぶ線上に散らばっていた。
「なかなか意味深ですね。"カマイタチ"は捜査を混乱させるために、範囲をオウトク山まで広げたのか、それとも……」
「オウトク山へ向かう用事の"ついで"だったのか……でしょ」
 オルハの声にファビアは頷く。
「確かに、自警団でもたまに街から離れた場所で被害に合う人がいるよ。そもそも、そんな所に行く人って限られているし」
 イチコが言う。確かに一般人が行く場所ではなく、せいぜい聖地の巡礼に向かう程度だ。そもそもSEEDの到来後はモンスターが多く、まず人など住んでいない。
「そんなわけで被害が増えてるので、任務の優先順位を変更するわね。今までは教団と"カマイタチ"の関係を偵察するのがが優先だったけど、それよりまず被害を減らしたいの」
「つまり、偵察より見回りと遭遇情報の収集、そして"カマイタチ"の撃退を優先というわけですね?」
 ファビアの声に彼女は頷いた。
「……ではまず手始めに、こちらの情報を話します。先ほど教団の自警団に参加しているガーディアンたちと話をしたんです」
 ゆっくりとファビアが話を続ける。
「はっきりと"カマイタチ"の姿を見たことがある者はいませんでしたが、教団でも被害にあった者はいます。それで、ここからが肝心なのですが」
 ここで止めてゆっくりと息を吸い、ファビアはうまい具合にじらす。
「――怪我は、フォトン傷だったそうです」
「……つまり、フォトン武器で切られてるってこと?」
 きょとんとした顔で、オルハが聞き返した。
「うん。なのに、不思議な事に誰も"カマイタチ"の姿を見ていないんだ」
 オルハの声に、ファビアに代わってイチコが答えた。それに続く形で、ファビアがゆっくりと話し始める。
「……そうです。おそらくこれは人災だと、私は睨んでいます」
「人災……!?」
 オルハは驚きを隠さないまま声を上げる。"カマイタチ"はあくまで新種のモンスターによる被害やその類だと思っていたのだ。
「……あくまで個人意見ではありますが、現在の情報を統合してみると、私にはそうとしか思えないのです」
 ファビアが神妙な、どこか悲しそうな面持ちで言った。
 辺りが思い空気で覆われ、急にしんとなり時間だけが闇雲に流れてゆく。
「でもさ、化け物じゃなくて人間なら全然怖くないじゃん? ボク、オバケとか怖いの嫌いだし」
 不意に沈黙を破って、オルハがあっけらかんと言った。それに一瞬空気が凍ってから、三人は顔を見合わせる。
「……はは、ははは……!」
 堰を切ったように笑い出す。オルハだけ意味が分からず、きょとんとして全員の顔を見回した。
「? ボク、何かおかしい事言った?」
「いや……あはは、オルハ、あなたは大物だ」
「ほんと、やっぱりオルハはすごいね……あはは……」
「……???」