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小説PSU EP1「還らざる半世紀の終りに」 第1章

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・憶"じゃ」
「!」
「どういう原理かは不明じゃが、2匹のラットに同じ記憶を持たせ、まったく同じ習性を持つラットを作り出したのじゃ」
 背筋に冷たいものが走るのを感じて、アナスタシアは思わず立ち上がる。ふらつく体を支えるために突き出したはずの両手が、テーブルを激しく叩いて大きな音が鳴った。
「そんなものがもし人間に対して使われたら……倫理観も、人権も……何もかもがめちゃくちゃになりますわ!」
 記憶をコピーできるということは、中身が同じ人間を量産できるということ。
 そのベースとなった人間の人権は?
 新しい記憶を植えつけられた人間の権利は?
「その"もし"を彼女はやってしまったのだよ」
「……」
「彼女はしばらくして、新たな実験を開始した事を公表した。"二人の人間の遺伝子情報を元に、キャストを作った"と」
「……」
 狂っている。
 アナスタシアはそう思う意外の手段を知らなかった。
「知っての通り、ヒューマン・ニューマン・ビーストであればクローン技術で遺伝子情報から固体を生成する事ができる。キャストであれはクローンキャスト技術で記憶情報から固体を精製する事ができる……」
 アナスタシアはただ、ラジャの話を呆然と聞いていた。
「……じゃが、バーバラは記憶から新しい人間を作ってしまうだけではなく、種族の壁まで越えおった。当然政府も動き出すし、世論の反発も買う。彼女は博士号を剥奪されて表舞台からは姿を消し、そのまま失踪してそのキャストも行方知れず。……という所でこの一件は落ち着いたかのように見えた」
 ラジャはゆっくりと息を吐いて、締めくくった。アナスタシアが目線を落として、眼前で握った両手を小刻みに震わせているのを見て、ラジャは続ける。
「……が、水面下で活動を続けておったようじゃな。この傍らにおったビーストフォームの手の男とやらも、その産物やもしれん」
 ラジャは気難しそうに腕を組んで荒く息を吐きながら、もう一度締めくくった。何らかのリアクションを期待して。
「なんにせよ、やっかいな相手じゃ。先月の太陽系警察との会議でも、バーバラとその組織――"コナンドラム"の調査をガーディアンズが担当する、という事で合議した」
「"コナンドラム"……」
 ゆっくりと息を吸って、ラジャは続ける。
「アニー、御前さんなら遂行できると信じて頼みたい。――やってくれるな?」
「当然ですわ」
 アナスタシアが視線を変えずにためらいなく言うのに、ラジャが静かに頷いた。
「……じゃが、もうしばらく待ってくれい。生憎、すぐ動ける人間がおらん。御前さんとこのファビアも今日から別任務についておる」
「……そうですか……」
 アナスタシアは明らかに気落ちして答える。それもそうだ、やっと手掛かりが見つかり、話が前に進むと思っていたのに。
「まあ、そうくよくよするな。休むのも任務のうちじゃよ」
 アナスタシアは、脱力した顔で「はぁ」とだけ答えた。
「おお、あと御前さんが持ち帰ったロボットの部品じゃが」
「何か分かりました?」
「結論から言うと、よく分からんという事が分かった。大まかに言えば、テクノロジーの方向は近いが、理論体系がまったく違うんじゃ」
 ラジャはため息をついて続けた。
「分析が終わったら再構築して、実戦で使えるかテストをして欲しい。実弾を打ち出す珍しい銃じゃ」
「実弾?」
 アナスタシアは素直に驚いた。フォトン武器全盛の世の中に、あえて実弾を使うメリットはあまり無い。弾速・効率など、どれを取ってもフォトンの方が良いからだ。今や実弾兵器は、ごく一部のマニアのためだけの武器となっているという現状がそれを物語っている。
「まぁ、そのテクノロジーのテストじゃと思ってくれ。だから、真面目にやってもらわんと困るてすと」
「……」
 アナスタシアは首を少し傾けながら困った顔で、ふぅ、と小さなため息をついた。