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フレンドボーイ42
フレンドボーイ42
novelistID. 608
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【完全読み切り】跆

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「バシャーモ、ルカリオ、エルレイド…格闘ポケモンって強いのが多いなあ」
 そうあこがれたのがそもそもの始まりだった。

 ひたすら打つ、打つ、打つ、それが彼女のやり方だった。

 今日もムロタウン南のポケモンジムで彼女は自分と違うスタイルのトレーナーと共に特訓を始める。
 
 #
 
 ムロタウンジムリーダー、トウキ。柔道家とサーファー、二つの面を持つ。
 いずれにしても受けて返す、というスタイルである。自分から責めるのではなく、相手の流れを自分の攻撃として組み入れる。そのスタイルが彼のお気に入りである。
 彼だって当然弱いわけでなく、むしろ彼は強く、力押しでも十分に勝てる。だが、あえて自分の力は必要な一瞬しか出さない。相手の流れる方向に力を入れる。無駄な方向に力は入れない。

 それが彼女としては納得がいかなかった。彼のスタイルは、ただの引け腰じゃないか、というわけだ。

 バトルガール、シノブ。三笠忍(みかさ しのぶ)という名前を持つ彼女は、むしろリーダートウキとは逆の戦い方を好んでいた。

 ただひたすら打つ。相手より素早く動いて相手を翻弄し、強烈な一撃を入れる。それで倒れなければさらに打つ。倒れるまでただただ打つ。相手が動くまで待っているだなんてかっこ悪いとしか思えないのであった。彼女自身、強くなろうと努力した。空手を極め、テコンドーを極め。打って打って打ちまくる、それしか彼女は考えないのである。
 彼女は昔から、自分から動くことを望んだ。テレビで、格闘技を見て、殴りあいや蹴りあいにあこがれた。
 そして、彼女のポケモンも自分のスタイルに合うものをセレクトする。
 バシャーモ・ゴウカザル・ルカリオ・エルレイド・エビワラ―。打つ、それだけを望んで彼女のポケモンは決められた。守っている暇があったら打つ。そのやり方で生きてきた。

 彼女は、各地を放浪して修業に明け暮れた。自分の戦いをひたすら極めようと。
 柔道家には絶対に負けないと誓っていた。たとえそれがどんなに強かろうと、投げさせなかった。常に全身全霊、攻撃に費やす。その強さが認められて、ジムトレーナーになることが決まった。

 しかし、悲しいかな、ジムリーダーは自分の出身地のジムの、自分の知り合いだった。

 「トウキ…」

 あの柔道家兼サーファーか。弱虫もいいところじゃないか。
 持っているポケモンもカイリキーとハリテヤマ、それにカポエラーと、基本受け身のポケモンだった。

 あいつ…昔っからいじめられっ子だったあいつは自分が受けるにはやっぱり厭なのだろうか。しかし、トラウマなんか越えられない奴がジムリーダーなんて大役は無理ではないか?

 しかし。

 彼女は勝てなかった。

 「…」

 やはりジムリーダーといったところか。彼には無駄なんてなかった。避けるという無駄な動作をしない。動くのは一瞬、それも相手の攻撃をもろに食らったときである。

 「カウンター」

 それだけだった。

 彼は特殊攻撃すら返す、とんでもない柔道家であった。

 #

 彼女は暗闇のジムの中、ひたすら彼に挑み続ける。素早くなきゃあ勝てないんだ。

 #

 「どうしてそんなにせかされたような顔をして戦うんだよ?俺は別に何の制約を課しているわけでもないし、お前になんかしたわけじゃないだろ」
 そう言われると、なおさら、切羽詰まる。

 「あんたこそ…何でそんなに受けるだけなのさ」
 「…」

 「受けるだけってまるで何も考えていないみたいじゃないか」
 「?」
 「俺だって考えながら反撃してるさ。指示は一個だけどな」

 …のちにそれはよくわかった。後ろでカウンターというとき、手のポーズが変わっている。
 でもポケモンはそれを見てはいない。…感じ取る?まさかそんなことが。

 そう、彼らは見るんでも聞くんでもない。ただ気配だけを読んでいた。

 トウキにはそなと二も勝てなかった。

 しかし、彼女の心の中には、またある感情が芽生えていた。

 

 感じ取らせない。

 その言葉が、強く深く根ざす。