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十代は食べることが好きだ。特にエビフライなんて素晴らしい。こんがりキツネ色のサクサクした衣の中から淡いピンクのかかった白いぷりぷりの身が出てくるエビフライにタルタルソースをたっぷりつけてかぶりつくのである。つけるのはマヨネーズでもいい。ソースも美味いしレモンをかけてみたっていい。可能性は無限にある。
十代は食べることが好きだ。しかし時々、食べることがとんでもなく醜悪なものに見えたりする。隣の人間が料理を前にして歓声を上げる、そのかぱりと開いた口だとか、早く味わいたいと無意識に突き出された舌だとか、知らず剥き出しになった黄ばんだ小粒の歯だとか、そんなものだ。とんでもなく穢らわしい、気持ちの悪いものに思えてしまう。そうなったらもうおしまいだ。なにも食べたくなくなるのだ。
食べるのをやめた十代は当たり前のようにやせ細っていくのだ。頬がこけ、あちこちの肉が削げ落ち、骨が浮いて、目だけがぎょろりとひかる。食べたくないと思っている間は不思議と腹も空かない。だからやはり十代は食べないままでいる。それで死ぬことはないけれど、しまいには骨と皮だけの見るに耐えない風体になるので、呆れた顔をしたユベルが十代に言うのだ。
「君が食べようと食べまいと、関係なしにあいつらは食べ続けるんだよ」
うんざりしたユベルの一声で、骨と皮になった十代は、はっと目が覚めるのである。
そっか。そうだよ。俺が食べても食べなくてもあいつらとは関係ないんだな。
馬鹿だねえ、とユベルが笑うと十代は途端に腹が空いてくる。猛烈に食べたくなる。できるならエビフライだ。タルタルソースをたっぷりつけたサクサクぷりぷりのエビフライ。マヨネーズもソースもいいし、偶にはレモンを搾ってもいい。可能性は無限にある。
食べたくなった十代は今日もまた元気に食べる。そして時々嫌いになって、また好きになる。食べたくなくなるたびにげっそりとやせ細って、食べたくなってまた太る。
そんなことをもう100年も繰り返している。