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率直に申しまして

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手に入れたら、怖くなる。
それは、最初から分かりきったことだった。
傷付ける術しか知らないのに、全てを騙して欺いて生きてきたのに、大切なものを慈しむなんてこと出来るはずがない。
ただ護ればいいだけならどんな手を使っても護ることは出来る。けれど、それだけだ。それ以外の術など知らない。

『少し素直になってみたら、変わるんじゃない?色々とさ』

いつかの日に腕の傷を治療しながら呆れたように笑った新羅が何を思っていたのかは知れないが、まるでわがままな子供を諭すかのように見えたなんて認めたくはないから、いっそあの時間ごと記憶の底に封印してしまおうと決めていた。
それを今になって思い出すのは、何故だろう。
今更あの時の新羅の言葉が脳裏を過ぎっていったのは、どうして。




(今日のシズちゃんはなかなかしつこいなぁ・・・)

うぅんと唸りながら、真新しい足の傷を見下ろす。近くから聞こえる雄叫びと叫び声から、通りを覗くまでもなく平和島静雄本人が臨也を探している姿が容易に想像された。
静雄の投げた自動販売機から飛び出た缶が思い切りぶつかってしまったらしい右足首を思えば今出て行くわけにもいかず、けれどこんなところにいてもいずれは見つかってしまうだろうことも分かっている。
本当に困った。
こんな現状、厄介以外の何物でもない。・・・そう思う傍らに、別の感情が存在していることは、自覚しているつもりだった。
生涯認めはしないだろうし、どうにかしたいようなものでもない。
その代わり、一生消えることもないのだろうことも、理解していた。
新羅の言葉は全く以って正しかったのだから、恐れ入る。

「あー・・・仕方ない。がんばるしかないか」

右足首の痛みはどうにもならないが、どうにもならなくても何とかしなければならないのだから仕方がない。避け切れなかった自分の不運を嘆くより他にないのだ。
よっと勢いをつけて立ち上がれば右足がズキズキと痛みを訴えるけれど、思考を切り替えてこの場所から最短で逃げる道を計算する。
怪我をしているなんて、悟られてはいけない。
全力で走らなければいけない。
対等以上の存在でいなければ、全てが終わってしまうのだから。

「うっわ、シズちゃんまだ俺のこと探してたの?俺って愛されてるなぁ!」
「テメェ今すぐ息の根止めてやるからそこ動くんじゃねえぇ!!」
「嫌だなぁシズちゃん!俺に帰って欲しくないなら、もっと気の利いた口説き文句を考えてよ!」

ズキズキズキズキ
一歩を踏み出すごとに痛む右足が、一々悲鳴を上げる。けれどそんなものに構っていられる余裕などあるはずもなく、くだらない言葉の掛け合いに全神経を集中させた。
流れる冷や汗を拭うのも忘れて、ただひたすらに足を動かして、笑い声を上げて、彼の目に映る姿がいつも通りであるように。

(シズちゃんが馬鹿で、ホント良かった)

漏れる安堵の溜め息を全て笑い声に変えて、静雄の怒りに油を注ぐ。本当に簡単で単純で、何て分かりやすい。

「ねぇシズちゃん、分かる?」

死ねとか黙れとか殆ど意味を成さないような暴言を吐き散らかす静雄に、聞こえているのかどうかは分からない。
それでも臨也は、にっこり笑みを浮かべて事実だけを簡潔に言霊へと変える。

「俺は、君だけが嫌いなんだ」


手に入れることが怖いなら、手を伸ばさなければ良いだけの話だ。手に入らなければ、それでいい。
でも繋がりだけはやっぱりどうしても断ちたくないから。


だからほら、とりあえずは終わらない鬼ごっこをしよう。
作品名:率直に申しまして 作家名:つみき