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「アイスが食べたいんだぞ」

突然何を言い出すかと思えば。夕飯もお風呂も済ませ、炬燵に潜りながらのんびりと夜の時間を過ごしていた最中、突然の間食宣言に私は驚く。夕飯から時間があいているから小腹が空いた気持ちはわからなくもないが、時刻は深夜だ。今食べるくらいならさっさと床に入り明日の朝まで眠りに浸かればいいのに、というのが私の考え。けれど彼は違うらしい。

「どうしたんですかいきなり。もう夜も遅いし、明日にした方がいいのでは?」
「駄目なんだ、一度強く思ってしまったらもう離れない。いま、アイスが食べたい!」

炬燵のテーブル面に両腕を投げ出して、私より大きな体のいい大人が、ちいさな子供が駄々をこねるようにアイスアイスとねだるように繰り返す。言い聞かすより素直に従った方が得策なのは既に学習済みだ。真っ暗な夜空を窓越しに仰ぎ、一息ついてから重い腰をゆっくり持ち上げる。普段は見えることのない金色の頭を真上から見下ろすと、光に反射して白く輝く眼鏡の奥の、まるでビー玉のような双眸が不思議そうに私を見上げる。

「アイスが食べたいのでしょう?うちにはないので、そこのコンビニまで一緒に買いに行きましょう」

きらり、とふたつのビー玉が流れ星のように煌めいて見えたのは気のせいではないのだろう。すぐさま立ち上がり上着を取りに行く姿は本当に子供のようで、私は彼の親にでもなったかのような気分で、しょうがないなあ、と不快ではないため息をついた。



「日本の春でもやはり夜は寒いんだな」

寒い、と漏らす彼は寝間着の上に自前のジャケット一枚という至極簡素な格好だから、そう思うのも無理ないだろう。私も同じような格好をしていたが、昨今の急激な寒暖差を身に沁みて経験しているから、恐らく彼程は寒いと感じていない。街灯に点る明かりが足元を照らし、視界を広くしてくれる。地面には桜の花びらがあちこちに散らばっており、辺りが暗いせいかそれはまるで積雪のように見えた。

「菊」

不意に名前を呼ばれ顔を上げると、心なしか呆れたような拗ねたような顔にじっと見詰められ、反射的に謝罪の言葉が口からこぼれた。

「すみません、何かお気を悪くされましたか」
「また一人で黙って何か考えてる。何か面白いものでもあったのかい?」
「いや、」

取るに足らないことだから、わざわざ口にしてまで言う必要はないと思っている。だからと言って何も言わないままでも彼の不満は解消されないから、仕方なく私は口を割った。

「先に言っておきますけど、とてもくだらないことですよ」
「ああ、全然構わないよ」
「暗がりで見る桜の花びらが、雪が積もってるみたいに見えるなあって」
「それだけかい?」
「ええ、それだけです」

くだらないでしょう?と言うと、何の悪気もなしに、確かにくだらない、と返ってくる。だから言ったのに、と若干の後悔と不満を抱くが、彼の言葉にはまだ続きがあるようなので、黙ってそれに聴き入ることにする。

「確かにくだらない、けれど、僕一人では思いもしなかったことだ」
「…と、言いますと?」
「そんな風に景色を見るのも悪くないね、ってことさ」

塀と地面との直角部分に溜まった花びらを、アルフレッドさんはつま先で蹴り上げる。彼の膝くらいまで舞い上がった花びらたちは、散り散りに広がりまた地面へと返っていく。私はそれをもう雪みたいだとは思わなくて、けれどとても綺麗だと、改めておもう。

「面白い、まるで綿菓子みたいだ」

その発想も、私一人では思い付かなかっただろうな。散らばっていく花びらと綿菓子を重ね合わせていたら、私まで小腹が空いてきてしまった。

何のアイスを買おうかな。ケースに並ぶアイスたちを想像しつつ、春の夜道を二人で歩いた。




100404
作品名:こころを共有 作家名:ばる