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もう一度名前を呼んで

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弦一郎が亡くなった
事故だった。
突然すぎて、実感は無い。
学校にいないのはただ休んでいるだけのように思えた。


「今日、部活どうする?」
「今日は休むよ」
(今日も、)の間違いだろと言いたげな目で精市は見つめてくる。俺はすまない、と言って軽い荷物を肩にかけて帰宅した。

『蓮ニ』
「げんいちろう」
突然弦一郎が帰ってきた。











「まさか幽霊が本当に居るなんて、まぁこうして俺の前に現れた弦一郎自身が証明してくれたのだがな」
『びっくりさせてすまんな』
「いいや」
他愛ない話をした
「精市は変わらずあの調子で、お前の分もしっかりやってる。テニス部は心配するな、赤也はお前がいなくてなんだかもの足らなそうだ、そうだ明日学校に来ればいい。きっと皆喜ぶだろう。」
『ああ』
こんなに喋るのを急いだ事は無い、夜になると弦一郎は俺の部屋でじっとしているだけだった。
弦一郎が読みたがっていた本、結局貸しきれなかった本を本棚からありったけ出してやったが幽霊の弦一郎に触れるはずもなく、俺はそれを自分で読みながら、ペラペラと夜中なのも忘れて捲った。
少し前までそこにいた弦一郎が突然いなくなってまた現れた。それだけで俺は幸せだった。

翌日弦一郎は俺の後をついて学校に入る。
「柳先輩!」
「ああ、赤也か、どうした?」
「今日は…今日は部活来ますか?」
赤也や聞き辛そうに俺に言う。俺は弦一郎の方をちらりと見てから「ああ」と答えた。すると赤也は表情をころりと変えて跳び跳ねて喜んだ。
「柳先輩、今日はすっげぇ元気そうで良かったっす!」
「元気…そうだな」
「なんかあったんすか、彼女出来たとか」
喜ぶ赤也を目の前に俺は笑い返した。
「そうだ、お前には言っておこう。昨日弦一郎が戻って来たんだ。あとで皆に話そうと思っていたんだ」
「そ…そうなんすか…」
急に今までのはしゃぎようは何処へやら、静かに首を下げて目をふせた。
「…お前には見えないか、弦一郎、今ここに居るんだ」
そう言って自分の横にたつ弦一郎に笑いかけると赤也は走っていってしまった。
「やはり、俺以外には見えないのか?」
『すまん』
「いいやお前が謝る事は無いさ」


そのまた翌日。
今日は弦一郎には部屋で留守番をしてもらう事にした。
「姿の見えないお前と外では話せないからな…」
『ああ、蓮ニ、俺の事は気にするな。今日は一人で学校に行け』
「ああいってくる。」
『いってらっしゃい。』
一人で居るのは久しぶりに感じた。それまでずっと俺は弦一郎の側にいたから。なんだか急に寂しくなって一度家を振り替える、しかしここで帰ったら弦一郎に口煩く言われるのだろうな、となんとなく予想し再び学校へと足を進める。


「柳、ちょっと付き合ってよ」
「?なんだ」
「ボールの整理、俺だけじゃ大変だから」
「解った。」
体育館倉庫で精市と二人きりで汚くなったボールとそうでないものを分けた。沈黙は辛くない、黙々と作業している中でその沈黙を破ったのは精市だった。
「昨日、赤也が泣きながら俺の教室に来たんだ」
「…?」
「柳先輩が変になっちゃったって」
「失礼な」
「あのね、柳、真田は…真田は死んだんだ」
酷い一言だと思いながら俺はボールを仕分ける作業に夢中になるふりをした。









家に帰るとそこに弦一郎の姿は無かった。
いいや、最初から居なかったんだ。
弦一郎は死んだ、あの屈強な皇帝が事故でぽっくりだ。
あの時死んだ弦一郎を見ながら俺はただひたすら願っていたに違いない。もう一度、俺の名前を呼んで欲しい、と。


「弦…一郎…っ」


弦一郎が死んで一ヶ月。
俺はそこで初めて泣いた。




END
『蓮ニ、俺の事は気にするな。』
作品名:もう一度名前を呼んで 作家名:Rg