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おにとひと

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「鬼さんこちら、手のなる方へ」



小さな古びた家に鬼が住んでいると母から聞かされた事があった。
子供心に行ってはいけない、見てはいけない、呼んではいけないといわれれば言われる程好奇心はつのり手を出したくなる。ある日俺は貞治の静止を振り切って村はずれのぼろ小屋へ足を進めた。貞治はずっと俺の名前を呼んでいたが俺は無視をしてどんどん足をすすめた。
静かなじめじめとしたその場所で俺は手を叩いた。
鬼は、赤い鬼だろうか、それとも青い鬼だろうか、桃太郎に出てくるような金棒をもったふうだろうか。俺は危険などさておきとにかくわくわくしていたのだった。
しかしいくらよんだところで鬼はでてこなかった、母上のうそつき、きっと着物を汚されたら困ると思ってあんな嘘をついたんだな!!!俺は悔しくなって小屋の中へずんずんと足を進めた。
何やら気持ち悪い、蜘蛛の巣があちらこちらに張り巡らされて障子は破れて戸は外れている所すらあった、こんな所に生き物なんて住めないだろう。やはり母上は嘘つきだ、俺は帰って鬼なんていなかったと証明しようと小屋を出ようとしたその時だった。
「誰だ」
振り向き様に見た影は大きくまさかこんな所に住んでる人間がいるなんてと息をのんだ。
ひたひたと掃除がされていない汚いままの廊下を素足が歩く音がした。
「お前、ここに何をしにきたのだ。」
何をしにきた、鬼がいると言う噂を確かめにきた。しかしその鬼はいなかった、そんな妄想話をするには恥ずかしすぎる。俺は迷った、とだけその影に答えた。
「迷う、こんな村のはずれでか。」
「うん」
俺はだんだん怖くなった、影の大きさからして大人だ、こんな所に入って怒られてしまう。すぐにでていくから、と声をふりしぼっていった瞬間俺は目を疑った。
月明かりに照らされてその大きな影から顔が見えた。額には大きな角が二本。
「お、鬼だ」
「なんだお前、人間か。」
大きな体が縮こまって俺の前にしゃがみ込んだ。
「お前のようなおなごが、こんな所へきて母上に怒られるぞ」
鬼は、人を喰うと聞いたのにそんな仕草はみじんも見せず抱えていた鼠や鶏を喰いちぎった。
うえっ、と様子を見つつ俺は床に尻餅をついた。
「お、鬼がほんとにいるなんて…信じられない。それに!!!俺は男だ!!!」
「五月蝿い餓鬼だ、そんなに五月蝿いと喰ってしまうぞ。何、しかし女ではないのか、その風貌で、ガリガリではないか。」
「これから!!大きくなる!!!!」
俺は巨体に負ける事のないように大声を出した、すると鬼は耳に指をつっこんで、五月蝿い、まったく餓鬼は。と部屋の奥に入っていってしまった。
まさか鬼をみつけて喰われずにすんだ事は幸運だ、しかしこのまま帰るわけにもいかず俺は鬼の後をついて部屋に入った。
ずっとついて回る俺にしびれをきらして鬼は大きな和室の隅に腰をおろして俺も目の前に座る様にいってきた。
「お前、早く帰れ。餓鬼の面倒はみられん」
「餓鬼ではない、蓮二だ」
「なら蓮二、帰れ。」
「嫌だ。」
「強情だな、まあ嫌いではない。」
鬼は俺に笑ってみせた。
「どうしたら帰る?」
「・・・・」
「さしずめ俺がいたと言う証明が欲しいのだろ。」
「・・・・うん」
見透かされていたのが恥ずかしくて顔を伏せると鬼は不意に自分の角を掴み、そのまま角の先をへし折った。バキンっと言う音がして目をまんまるにしていると鬼はその折った角を俺の目の前に差し出して「もって行け。」といった。俺は黙ってその角を両手で持つと声が出せなくなった。
「何をびっくりしているのだ、さっさとソレをもって帰れ、俺がいたと証明できるだろう?」
「あ、ありがとう」
「良い子だな蓮二、挨拶はしっかりしている。」
そういってせかせかと玄関に追いやられるようにして歩いた最後、俺は鬼を振り返って名前を聞いた。その鬼は「弦一郎だ」とだけいってさっさと小屋の奥へ戻っていってしまった。


それが、最初の出会いだった。







「弦一郎」
「またきたか。」
あれから十年もたった、あの時ガリガリだと言われ女と見間違えられたからだはしっかりと成長して今や弦一郎とかわらない。どうだ、お前と同じ背の高さまで追いついたぞと言うと「お前は毎日きていたからそう変わった様はわからんな」とからかってくる。
あの日俺は両手で大事に弦一郎の角を抱えて持って帰り母上に見せ鬼がいたんだと話をするも信じてはもらえなかった。どこの鹿の角を拾ってきたの、捨ててきなさいの一点張り。貞治すら信じてはくれなかった。
だから俺は夢だったと片付けて誰にも気付かれないように弦一郎のすむあの家へ通った。
母には貞治の家にいったと嘘をついている。
「その角は治らないのか?」
「蜥蜴のしっぽのようなものではないからな、折れたら折れっぱなしだ」
「それは、悪い事をした気分だ」
「俺が自らやった事だ、それにもう十年も前の話だろう」
「十年なんて鬼のお前にはほんの十年の話…」
「お前にはあっと言う間の話だろう」
そこで俺は黙ってしまった、弦一郎はこれからずっとまたひとりこのボロ小屋で生きていくのだろうか、俺が成長し老人になってもこの角はもとに戻る事もないし年老いる事もない、弦一郎はそうして長い時をこのさき生きていく。
「お前は俺の事を忘れてしまうだろうな」
「いきなりどうしたのだ蓮二」
「長い月日、俺のような人間の事この先も覚えていられないだろう弦一郎」
「そんなに俺の記憶力が信用ならんのかお前は」
「だって」
「忘れんさ、お前に角をやったからこの角を触ったり見たりするたびにお前を思い出すだろう」
そういってごつごつとした角をなでる手に妙に色気があって俺はくらりとした。
鬼とはみんなこんな生き物なのだろうか、俺が死んでも弦一郎は生きていて、覚えていてくれる。
それでいいのかもしれないと思ったが俺はまだまだ子供の様でそんな理由でこの寂しさを拭えるとは思わなかった。
俺も人間を放棄して鬼になれないものか、それか弦一郎を人間にする方法はないのか。俺はごろんと弦一郎の膝に頭をのせて考えた。弦一郎はもうそんな事をした所で驚きもしない、黙って目を瞑って俺の髪をなでてくれる。
まったく小さい頃とは変わっていない、髪の長かった時お前の髪は美しいなといって撫でてくれた手のままだった。
「子供扱いのままだな」
「小さい頃から見ていたらな」
「お前のなかで俺はずっと子供らしい……」

俺は大きな手で、頭を撫でられたまま眠りについた。







END
「そうでもないのだがな、蓮二。」
(お前はいつのまにか大きくなってしまった。)
作品名:おにとひと 作家名:Rg