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…face・・・

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「雷蔵、私の本当の顔が知りたい?」







雷蔵は朝一番に聞かれた質問にまだ頭が回らなかった。だって寝起きだもの、仕方ない。鉢屋はそれでも何度か聞いたけどそれでもやっぱり駄目で雷蔵はコロンと布団の上にもう一度転がった。
鉢屋はたまに凄く子供くさい事を言う、雷蔵も承知だが、その子供くささがいつ来るのか、とかは雷蔵もよくわからない。

「雷蔵、雷蔵ってば」
「ね~むい…」

顔を覗き込んでくる鉢屋、ぐるんと寝返りをうって顔を背ける雷蔵。
でも雷蔵はもうしっかりと目を醒ましていた、鉢屋は暫く黙って雷蔵が寝てる床の横に胡座をかいて座った。大人しい、静かになったと雷蔵は鉢屋の方にもう一度寝返りをうった。

「雷蔵」
「な、なに」

しょぼくれたような顔をして鉢屋は泣きそうだった。なんで泣くんだよ、と少し枯れた声で言うと鉢屋はひょいと顔を変えた、しんべえの顔だった。これで泣いても平気だろ?鉢屋はしんべえの顔のまましくしく泣き出す。

「だめだって、それじゃしんべえが可哀想だろ?」
「なら誰の顔ならいいんだ」
「…僕の顔でお泣きよ」

すっと鉢屋の首に腕を回して自分の方に引き寄せると鉢屋は涙で濡れた顔のまま笑った。
何故あんな質問をしたのか問うとじゃぁさっきの質問に答えてくれと言った。鉢屋は雷蔵の顔に戻ってまた今度は正座をした。


「…、お前が自分から見せたくなるまで僕は待つよ。」


雷蔵は頭をかきながら照れくさそうに言った。ぽかぽかと日差しが入ってきて背中が暖かい、

「そうか、良かった」
「今度は三郎のばんだよ」

鉢屋はきゅっと口を閉じてじっと雷蔵を見た、変な顔だなぁ、私の顔でそんな顔しないでほしいと雷蔵は思った。鉢屋は散々沈黙して何か誤魔化すように色んな顔に化ける、久々知とか竹谷とか土井先生、果てはでんこさんにまで。鉢屋は都合の悪くなるとこうやって顔を変えて誤魔化すから雷蔵は呆れてもう一度寝たふりをした。

「いいたくないならいいよ」
「ごめんって、雷蔵」

明け方の寒さに少し震えながら雷蔵の布団に入り込む鉢屋は腕を雷蔵の腰に回した。ぎゅっとくっつくから暖かい、雷蔵がくるっと鉢屋の方を向こうとすると鉢屋はこっちを見ないでくれ、と雷蔵の耳元で言った。

「今は素顔なんだ」
「え」

鉢屋は恥ずかしいんだよ、と言うけどきっと嘘なんだと雷蔵は思った。鉢屋は凄く臆病だからまだ私に素顔を見せれない。あといっぽ背中を押してあげればいいのかもしれないけど、それはやっぱり自分の意思で私に見せて欲しいから、雷蔵はわかったよ、と言って物分かりのいいふりをした。

「触ってもいい?」
「触るだけなら」

いいよ、鉢屋は雷蔵の手をとって自分の顔に触れさせた、触れただけではやはり解らない。それでも雷蔵は嬉しかった。

「これが三郎の顔、か」
「あぁ、ほんとのかお。」

口の位置や鼻の位置、手のひらに鉢屋の睫毛があたるたびなんだか恥ずかしくてくすぐったくて手をひっこめた。

「もうこっち向いても平気だよ」
「大丈夫か?」
「あぁ、もう戻した。」

僕の顔に?イタズラしたような声で鉢屋はうん、と答える。だんだんと高く太陽が登ってきて学園の起床の鐘がなるのももうすぐだろうと二人は向き合って笑った。きっと久々知が起こしにくるかもよ、雷蔵が言うから鉢屋はぱっと雷蔵の体から手を離した。







朝食に起きてきて雷蔵と鉢屋は向かい同士に座る、給食のおばちゃんのいつもの大声が響き渡って全員が食事をしはじめた時に、鉢屋は雷蔵に耳打ちをした。

さっきの雷蔵からの質問の答えは、特に無いんだ。気になったんだよ、ただたんに。お前は俺にけして顔を見せろとは言わないから、もしかしたら怖がられてるのかも、と思ってさ。

それって、十分答えになってるよ鉢屋
雷蔵は鉢屋の頬を箸で摘まみながら言った。いたいよ、と鉢屋は箸を祓いやっぱり照れ臭いなと顔を変えた。一瞬だけ、



直ぐに雷蔵の顔に戻してしまったけれど。




「その顔、誰の?」
「さぁね」
「もしかして、三郎の顔なの?」
「どうだろう、ご想像にお任せするよ」

意地悪そうに雷蔵の顔でからかう鉢屋が一瞬だけ出したあの顔は、
雷蔵がめをぱちくりしてる間に鉢屋は朝食をどんどん平らげていくから、遅れないようにと雷蔵も箸をつけはじめた。








END
「もう、大丈夫なの?」
「もう少し時間はかかるかも」
作品名:…face・・・ 作家名:Rg