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あけましておめでとうなはなし。

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「もちがくいたい」
「焼いてやろうか」
「うむ」

真田は炬燵に足を入れ猫と遊んでいた、突然思いついたのかもちがくいたいなどと彼が言うものだから柳は家にあるスーパーで買ってきた四角いもちを思い出して焼いてやろうかと提案する。
真田は首をたてにふり、早くと言わんばかりに柳をみた。この末っ子め、柳は心の中で悪態をついた。
網を出してもちをいざ焼こうとすると真田はあとをついてきたのか猫を抱きかかえたまま柳の後ろからもちをじっとみていた。
「弦一郎、そんなに見ていても直ぐには焼けないぞ」
「うむ」
わかっている、とでも言うように柳から視線を逸らしてまたもちを見つめる。
「雑煮にするか」
「できるのか?」
「母さんが作った残りに焼いた餅を入れればいいだけだからな」
「なら、雑煮が食べたい」
真田は台所に立った事が無かったから物珍しさと初体験とで目がキョロキョロ動いた。
柳はそんな真田を見ながら笑い、もちが膨らんだら俺を呼べとまたリビングの方に戻っていこうとするも、もちを見ながらも柳の服の裾をつかみその場を離れる事をゆるさなかった。
「弦一郎、服がのびる」
「うむ」
うむ、じゃなくて。柳は呆れため息を吐いた。
「わかった、ここにいるから、服は離せ」
ぱっと手を離す真田。
しかし二人でもちを眺めていても柳は何も楽しくなかった。祖母から頂いたもちや親戚や近隣の方々から頂いたもちがまだ家に保管されているのを知っている柳はこれから母や姉が消費するべく毎日食卓に出そうとするだろうからあまり面白くなかった。そんなにもちが好きならあそこにあるもちは全部お前にやるから好きにしてくれと思う。
「弦一郎、楽しいか」
「ああ蓮二!もちが膨らんだらぞ!!」
立ち上がりもちを指差す真田は柳の腕を引いて早く早く!!と最速した。柳は重い腰を上げてもちをひっくり返す。片面が焼けた餅の膨らみの速さはものすごかった。
「エンジョイしているな弦一郎」
「なにがだ」
もちの動きだけで嬉々としている真田を見やるもほんとうにそう思う柳は真田の頭をポンポンと叩いた。
こんななりできっと誰より子供なのだろうなともちを箸で転がしながら横目で真田をみるとはしゃいでいた自分が急に恥ずかしくなったのかいきなり縮こまってしまう。
焼けた餅を今度は雑煮に投げ入れる、もう沸騰していた雑煮だから皿を出してすぐ真田に出してやる。
「ありがとう」
「ああ、召し上がれ」
「うむ、蓮二は食べんのか」
「俺は今はいいかな」
「そうか…うまい、うまいぞ蓮二!」
「よかった」
餅を口から伸ばして食べている真田、あんなにたくさんあるもちだが真田が食べているとたまらなく美味しそうに見えるから不思議だ。
「蓮二、食べるか」
「…あ…ああ、一口貰う」
そんなに物欲しそうにしていたのか真田に食べるかと聞かれ、差し出され思わず一口頬張った。関節キスだのなんだのと色々おもう所もあったがとにかく味は普通でうまそうだと思ったのは弦一郎が食べているからだろうな、と納得し一応「うまいな」と真田に言うと「だろう」とまるで自分が作ったように言うから「はいはい」と軽くあしらって自分の分を皿によそって席についた。
「弦一郎」
「なんだ」
「改めて、あけましておめでとう」
「む…ああ、今年もよろしくお願いします」
雑煮をすすり、炬燵に入ってのんびりとしているのもだいぶいいものだ。大量のもちを理由にこれからも弦一郎を家によぶ口実もある。
また今年もよろしく、そう思いながら雑煮の湯気のむこうに真田をじっとみる柳だった。


END
20100103
あけましておめでとうございます