秋雨
忍術学園の周りの木々が色づき始め、秋の訪れを知らせていた。やや暑さの残る日もあるが、少し前に比べれば随分と過ごしやすくなっている。
朝に目が覚めると、少し肌寒さを感じて伊作は掛布を被り、ついたての向こう側にいる同室に声を掛ける。
「留、起きてる?」
「ああ」
区切られた彼の空間を覗き込むと、既に制服に着替えて髪を結っていた。開ききらない目で視線がかち合う。
「伊作も早く着替えろよ。じゃないと朝飯におくれちまう」
頷いて、枕元にあった制服を引き寄せる。何度も袖を通し着慣れた深緑色の忍装束は、綺麗に畳んでいてもすぐにくたくたになっていた。
着替えながら、部屋の障子に目を向ける。外からの光が薄く入ってくるが、普段よりも暗かった。その時、ようやく耳を澄ませて雨が降っていることに気づく。
「秋雨かぁ……」
そろそろそんな時期だと思いながら、伊作はぼさぼさになっている髪の毛をまとめる。
忍術学園ではあまり秋雨が長く降っている印象はない。むしろ梅雨の方がたくさん雨が降り、じめじめするので過ごしにくかった。
「そろそろ、火鉢でも出すか」
「そうだね」
秋雨が終わるとぐっと寒くなり、木の葉が枯れると冬になる。まだ少し先だけどすぐ傍に訪れている、忍術学園で過ごす最後の季節。
ようやく掛布から抜け出した伊作は、立ち上がって伸びをする。
「その前に、部屋を整理しないとね」
「……だな」
荒れ放題の自分の部屋を見回して溜息を吐いた。これでは火鉢を出すどころか、火鉢がどこに埋まっているのかわからない。
多分、押入れの中だと思うけれど。
「とりあえず、朝飯行くか」
障子を開けながら、留三郎が言った。
「うん。……そういや、今日の講義なんだったっけ?」
伊作が後ろ手で障子を閉めて、二人で雨の降る廊下へ出て行った。