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照らす光の眩さと

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 織田は滅びた。
魔王亡き後、再び天下を巡る争いが始まるまでの僅かな平穏。

 甲斐では信玄の全快祝いと称して、幸村と信玄の熱い殴りあいが行われていた。
「お館さばぁぁぁぁぁ!」
「幸むるぁぁぁぁぁっ!!」
どごぉと重い音がして、衝撃波が草むらを波立たせる。
信玄は一時意識不明の重態に陥ったにもかかわらず、
ほんの一週間ほどでいつものように動けるまでに回復していた。
その回復ぶりを側で見ていた佐助は、
「やっぱあの人たち化けモンだわ。ほんっと心配して損した。」
とかすがに語ったとか。

(やれやれ、本当にまぁ、よくやるよ。)
かれこれ半刻ほど続く二人の殴り合いを眺めながら佐助は小さくため息をついた。
じりじりと夏の太陽が照りつける。
木陰に居ても暑いのに、遮るものが無い草原で殴りあうなんて正気の沙汰とは思えない。
見ているだけで暑苦しいその光景に安堵を感じて、佐助は苦笑する。
つい一週間前の死闘が嘘のような日常。
あの日、泣いてしまいそうだった幸村が今日は笑っている。
「心細いのだ」と言って震えていた姿。
自分にとって全てだと言い切れるほどの存在が失われたとき、その暗闇はどれほどのものか。
その闇の一端をあの日、佐助も味わった。
もし、あのまま自分の知っている真田幸村が帰ってこなかったら。
それを想像するとぽっかり穴が開いたような気持ちになる。
その絶望が分かる、その分だけ心がささくれ立つ。
真田幸村にとってお館様が全てであるように、真田幸村を全てとしている人間がいることに、
多分彼は気づいていない。
お館様一直線な彼に気づけと言うのは無理のような気もするけれど、それにしたって。
そこまで考えて自分の子どもっぽい考えにまたしても苦笑する。

 ふと蝉の鳴き声が聞こえた。
さっきまで少しも聞こえなかったのに。
佐助は不思議に思って顔を上げる。
すると、信玄と幸村が殴りあいをやめてなにやら話し合っているのが見えた。
嫌な予感がする。
そのまま様子を窺っていると、叫びあいが始まる。
「おやかたさばぁぁぁ、この幸村、果たしてみせますぞ!」
「うむ。その意気じゃ!幸村ぁぁぁ!」
「おやかたさばぁぁぁ!」
「幸むるあぁぁぁぁ!!」
「おやかたさばぁぁぁぁぁ!!」
幸村が砂煙をたてながら走ってくるのを見て、佐助は慌てて逃げようとする。
理由などない。
ただ、直感が逃げなくてはと告げる。
鳥を呼ぼうと空を見上げた瞬間、
「佐助ぇ!」
と地上から呼ばれる。
「なに?旦那。おやつはさっき食べたでしょ?」
流石に名前を呼ばれたのを無視して逃げることは出来ない。
せめてもの抵抗にはぐらかそうと試みるが、幾ら幸村でもこれでははぐらかされなかった。
「おやつの話ではない!佐助、お前に言っておきたいことがあるのだ。」
らんらんと目を輝かせる幸村の表情に、佐助の本能が警報を鳴らす。
しかしこの状況から逃れる術は、無い。
幸村はまっすぐに佐助を見据えて口を開く。
「よいか。確かにお館様は俺の全てだ。
 お館様をお守りし、お館様の天下を共に見ることが某の喜び!
 だが、俺がお館様を全てとし、お館様を全力でお守りできるのは、
 俺のために尽くしてくれる、佐助、お前がいてこそなのだぞ!」
力強い幸村の言葉に、佐助は頭を抱える。
だからなんでどうしてこの人はこういうことを忍にっていうかだから本当勘弁してくれ。
「なんなのさ、急に。」
思わず声音が拗ねたものになるのが、不本意極まりない。
「うむ。どうも最近、佐助が俺を避けているようなのでお館様に相談したところ、
 何でも、俺がお館様が全てだと言ったから拗ねているのだとおっしゃるのだ。
 お館様が全てという心に偽りは無いが、
 それだけではないのだということを佐助にも伝えねばならんと思ってな。」
嬉しそうに語る幸村の言葉の中に、聞き捨てなら無い言葉を見つけて佐助は目を見開く。
(誰が拗ねてるって!?)
勢い良く枝の上に仁王立ちする佐助。
強く拳を握り締め幸村を見る。
「分かった、旦那の気持ちはよーく分かった。
 うん、ありがとう。だけどそれ、忍に言う言葉じゃないから。
 いいから、そんなの俺様分かってるから、言わなくていいし。
 むしろ言葉より物で。団子じゃなくてお給料とかね。
 表すにしてもそっちで表してくれた方が嬉しいから。
 後、避けてたわけじゃなくて別に普通だから。避けてたとかじゃなから、本当。
 だからお願いだから、頼むから、金輪際そういうこと言わないでね!?」
願望を織り交ぜながらきつく念を押す。
幸村がしぶしぶ頷いたのをみて、佐助は鳥を呼んだ。
鳥に捕まって一直線に目指すのは、こっちを見て笑っているお館さまのところだ。
「大将、誰が拗ねてるんですか!!」

 風が草むらを揺らし、太陽が三人を照らし出す。
笑い声が草原に響いた。

―幕―
作品名:照らす光の眩さと 作家名:キミドリ