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【APH】弱虫なヒーロー【米普】

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「やあギルベルト! 久しぶりだね」
「んあ? お、アルフレッドか。元気そうだな」

 ギルベルトの姿を見つけたアルフレッドが駆け寄れば、ギルベルトは振り返りながら頬を緩める。赤い血のような瞳は綺麗だが、微笑んだ瞬間の剣呑さが薄れたその色も綺麗なものだとアルフレッドは思う。

「もちろん、俺はいつだって元気さ!」
「ま、そうじゃなきゃまたアントーニョに膝かっくんされるだろうしな」
「それは今も変わらないよ、顔を合わせる度にされるんだから」

 困っちゃうよ、と顔を顰めてみせればギルベルトはハハっ、と声を上げて笑う。初めて出逢った頃は不敵な笑みばかり浮かべていた彼の、知らなかった別の表情を見る事はとても嬉しい。
 けれど。

「こら、何眉間に皺寄せてるんだ。ヴェストみたいに皺が戻らなくなっちまうぜ?」
「うわっ、何をするんだい! テキサスを返してくれよ」

 ひょい、と眼鏡を取り上げられ、アルフレッドは慌てる。ほぼ伊達に近いので困る事もないが、それでも普段ずっとかけ続けているものがなくなるというのは違和感がある。
 にや、と笑ったギルベルトはアルフレッドからテキサスを奪ったまま、デコピンでもするかのようにアルフレッドの額を指先で弾く。むっとして睨み返せば、ひょい、とテキサスを戻されてアルフレッドは瞬きをする。

「眉間に皺寄せてんのはヴェストだけで充分だぜ。お前は元気なのが取り柄だろ」

 ギルベルトの言葉にアルフレッドはそうだね、と頷くが、それでも胸にくすぶる何かが消えるわけではない。
 彼の一番は自分にはなり得ない。わかっているからこそ、じくじくと胸の奥が腐って行く。
 弟を始め、彼の口からは次々と他の国の名前が飛び出す。そこに己の名が加わっている事は殆どないのだろう。なにせ自分が大国にのし上がった頃には彼はもう舞台から降りようとしていたころだ。独立戦争を手助けしてもらったことがあるとは言え、彼にとっては長い歴史の一部にしかすぎない出来事だというのは想像せずともわかる。
 けれどアルフレッドにとってそれは彼との出会いの記憶なのだ。彼の王がそう決めた、だから支援したという程度のことであっても、当時の大国が支援してくれるというのはアメリカという国にとっても、アルフレッド個人にとっても心強かった。
 何より、初めて目にした彼の姿が目について離れなかった。赤いマントを翻し、不敵に笑ってみせる彼の姿のなんと美しかった事か。美化し過ぎかもしれないが、当時の自分にはそこらの美術品よりも完成された勝利の神像のようにすら思えた。

「……ま、あんまり気張り過ぎんなよ。バテちまったら元も子もねえし」

 くしゃり、と髪を撫でる指先はあの頃と少しも変わらない。大国に臆するものかと精一杯強がっていた自分に、ふっと表情を緩めて髪を掻き乱したあの指と、少しも。
 地肌に触れる少し冷たい指先は、なぜだか少し泣きたくなる。触れられる事に身構えてしまうのは、彼の優しさがじわりと滲み入るようで怖いからだ。

「今日はホントなんか元気ねえな。何かあったのか?」
「そんなことないよ! 俺はいつだってフルパワーさ! ……確かに今日は、少し疲れているかもしれないけどさ」

 誤摩化すなと言わんばかりに顔を顰められ、慌ててアルフレッドは言葉を付け足す。するとまるで犬でも褒めるかのようにぐしゃぐしゃとギルベルトの手がアルフレッドの髪を掻き乱し、やめてくれよ! とアルフレッドはその手から逃れる。

「俺は子どもじゃないんだぞ!」
「バーカ、俺らから見たらまだまだ子どもだろうが。ま、確かに大国にはなったんだろうけどな。疲れてる時くらい素直に甘えたっていいだろ」
「そんなのかっこ悪いじゃないか、ヒーローはいつだって皆のために笑顔でいるべきなんだぞ」
「ヒーローだって生きてる限りは落ち込む事もあるだろ。……まあ、弱みを見せる相手は俺じゃ駄目だろうけどな、その法則で行くと」

 そんなことない! と言えたらどれだけ良かったか。けれどそんな勇気はなく、ヒーローのくせに情けない、と心中で自分を詰る。
 それでも口を開く事は出来ず、ほら行くぞ、と笑うギルベルトの背中を見ながらアルフレッドはただ、唇を噛み締めた。