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いつかまでさようなら

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「いやです、私は認めない!」

今まで文句も言わず、拒むこともなく、従順で素直が取り柄。恥ずかしがり屋なのか些細な戯れですら赤面し、何より侮辱されるのを嫌うからかどんなにつらくても決して他人に涙を見せることはない、気高さ。そんな彼に、惹かれた。

「ひとりにしないって言ったのに!離さないって言ったのに!」

そんな彼が顔をぐしゃぐしゃにするまで泣き、懇願し、すがる。向き合って、もうだめなんだ、と告げてすぐ両手は掴まれ、今もそのまま。ひどく熱い菊の手のひら。それとも俺が冷たいのか。

「行かないで、ください」

抱きしめたいのは、山々。俺が好きで菊を手放すわけはない。俺も菊もあらがえない何かが、阻んだ。それは俺たちが存在する限りついて回る問題。そんなこと、菊だってわかっていると思っていた。だからこんな泣かれるなんて、想像できるわけはない。

「行かないで、アーサーさん」

俺は張り付くように俺の手を包む菊の手をゆっくり解いた。菊は暴れた。そして菊の膝が崩れて、座り込み。見下ろしたまま、言った。

「さようならだ、菊」

こんなこと言いたくはない。抱きしめたい、泣くなとその目尻にキスをして、頬に頬を当てて、壊れるくらいぎゅっと抱いて、それでも泣き止まないなら手を握って、背中をさすって、もうどこにも行かないと耳元で囁いて。好きだ好きだ好きなんだ俺だって。こんなこと、誰が好きで言うもんか!俺だってできる限りのことはした、それでも何ともならなかった。お願いだから、泣き止んでくれ。最後だけ困らせるなんて止めてくれ。痛い。怠い。さようなら、菊。なあこれが、あいしてる、なんだろう?

「アーサーさん!あいしてるのに!」

背中で聞いた菊の声。良かった、同じで。俺は歩く、遠く遠くへ。それでも、もし会ったならその時は諦めよう。

ふたりは恋をする運命だった、と。
作品名:いつかまでさようなら 作家名:こまり