片想い心中
「いい加減にしたらどうです」
赤が見えた、血のように赤い、液体。君の腕を伝って、床にしみをつくる。どうして。
「どうして、僕をとめるの」
「とめないと、やめないでしょう」
剣の刃を素手で掴む人は初めて見た。違う、そんなこと今はいい。手の力が抜けて、剣が床に落ちる。カラン、二度跳ねて床に横たわる、剣に君の血がついている。見たくない、見たくないのに。
「僕なんか!」
「勝手にすればいいですよ、私にはあなたのことをどうこう言える資格も無ければ権利すら無い、ただ」
君は落ちた剣を拾って、大きく外側に振り下げた。確か、血振り、菊の国でそう呼ぶのだと聞いたことがあったような。
「あなただけが傷ついていると思うのは、もう止したらどうですか」
カチン、かすかな音を立てて剣が鞘に戻る。凛とした背筋、冷たいほど色の無い黒い瞳。君は知っている、君の体には君だけにしかない傷がある。
「誰だって、未来を、思い通りになんかできないんですから」
哀しい目で笑う君が、古傷をなぞる、その仕草の意味を問いかけることは、できなかった。聞きたくなかった。
それでも、僕は君が好きだと思う。