疑似×××
「ねぇ、痛いでしょ。なんで泣かないの」
「もう枯れ果てました」
「うそつき」
最初から一滴もこぼしてなんかないくせに!
ばこん、と音を立ててもう一度帝人くんを殴る。
もう一回殴る抓る捻じる噛む食い込む。
それでも帝人くんは泣かなかった。
「泣けよ」
「嫌です」
「あはは、やっと素直に言ったね!」
ばきっ
「…ッ!!」
「ねぇ痛いよね折れたよ今完璧に折れた俺が折った!なのになんで泣かないのさ!」
押し倒したというか殴り飛ばして組敷いたというか。俺は帝人くんの上に馬乗りになってひたすらに、帝人くんを泣かせるそれだけのために彼を殴って蹴って噛んで捻じって踏みつけて。折るのもさっきやった。
体中青あざだらけの帝人くん。口も切ってるし目もボコボコに腫れてるし鼻血も垂れてる。
俺はそんな帝人くんの乾いた頬を舐めた。ついでに噛んだ。まだ泣かない。
「なんで泣かないの」
あいつの前ではなくくせに!
手のひらにナイフを突き立てて床に磔にする。相当痛いはずなのに、彼は唇を噛んで悲鳴すら飲み込んだ。
気に入らない気に入らない気に入らない気に入らない!
「ねぇ涙を一滴流してくれるだけでいいんだよ。それで君はこの苦痛から解放される。なのになんで泣いてくれないの」
みしみしみし。
今度は皮を剥ごうか耳を落とそうか花を削ごうか目を抉ろうか足を捥ごうか腕を削ろうか。
「何をしたって無駄ですよ」
嫌いだ嫌いだ嫌いだ。あああ気に入らない嫌いだ大嫌いだ君なんて。
人間は好きだけど君は愛せないよ。
「僕はあんたなんかに啼かされてやりません」
気に入らない気に入らない気に入らない!
要らない要らない要らない要らないんだよ!
ぼきん。
「俺の知らない君なんてだいきらいだ!」