浴衣
説明も無く連れ出されてデパートに来ている。
俺を連れ出したのは隣に住んでいるザンザス。幼馴染として育ったからすごく仲は良いけど、ここ何年か少し距離をおかれたり逆にやたら過保護になったり、彼の行動はいまいち理解できないでいる。
「ねぇザンザス。どうしたの…?」
俺の手をぎゅっと握ったままズンズンと歩いて行くから、コンパスの違う俺は少しつんのめりながらついていく。(引き摺られているとも言う。)
すれ違う女の人たちがザンザスを見て何か言っている。ザンザスはちょっと強面だけど本当に格好いいから、一緒に出かけるといつもこうなる。
着いたのは…浴衣売り場?
「藍染めの浴衣を買ってやる」
その一言だけでザンザスは藍染めのコーナーで選び始めてしまった。
こうなると彼は気が済むまで引かないから、俺も並んで選ぶ。同じ藍染めでも案外色んなデザインがあってなかなか楽しい。俺は散々悩んで小さなウサギが何羽も描かれたものを選んだ。
「本当に買ってもらってよかったの?」
「あぁ」
帰り道、買ってもらったショップバッグをザンザスに持ってもらって(俺は自分で持つって言ったけど)、反対の手を繋いで電車に乗っている。もう俺もちっちゃい子供じゃないから手なんか繋がなくっても大丈夫だよとは思ったけど、ちょと嬉しかったから黙っておいた。
浴衣なんて何年も着ていなかったしもちろん新調もしてなかったから、わくわくする。帰ったら母さんに着せてもらおう。
「あ、そうだ!」
俺が急に声を上げたから、窓の外を眺めていたザンザスが俺を見下ろす。
「せっかく浴衣買ってもらったし、今年は夏祭り一緒に行こうね」
言ってから、こんなに格好いいんだし彼女居るだろうし、彼女と行くよなと思って慌てて取り消そうとしたら、握っている手の力が強くなって「あぁ。」とだけ答えてくれた。
俺は嬉しいのと恥ずかしいので顔が真っ赤になって、それを見られたく無くて俯いた。