携帯電話
携帯電話一つで繋がるのに、こんなに遠い。
日本とイタリアじゃ距離も時差もありすぎて、遠すぎて、不安になる。
「……はぁ、」
さっきから俺は携帯電話をぎゅっと握りしめて画面と睨めっこしたまま。決定ボタンを押せないまま30分ずっとこうしている。
会いたい。なんて我が儘は言わないけど、声ぐらいは聞きたいと思ってしまう。でも自分は学生で、向こうはマフィアで暗殺部隊のボスなんてやってて。
昔に比べれば成長はしたと思うけど、俺は未だに何をやってもダメダメでこんな容姿だし。ザンザスは背も高くてスタイルも良くて格好良くて。俺なんかとは全然違うから。だから、なんで俺のことを好きになってくれたんだろうと思ってしまう。不安になってしまうんだ。
今日も決定ボタンを押せずに携帯電話をベッドへ放り投げる。
聞きたいことも話したいことも山ほどあるのに、なんて臆病なんだろうか。
♪♪♪
携帯電話が着信メロディを鳴らす。静かな部屋の中に響いたそのメロディは…。
慌ててベッドに乗り上げて携帯を開いた。
「ッもしもし!」
俺が慌てているのがばれたのか、受話器の向こうから笑い声が聞こえた。
「ザンザス、何笑ってんだよ」
『悪い悪い…ククッ』
「もう…。で、どうしたの?」
『あ?』
「や、だから、何かあったの?」
忙しい彼が電話してくれたことが嬉しくて、でも素直に口に出せなくて、つい「何かあったの?」なんて言ってしまう。本当はこんなこと言いたいわけじゃないのに。
『お前の声が聞きたくなった。それだけだ』
歯の浮くような甘い言葉。
恥ずかしいけど、恥ずかしいけど嬉しくて。
「俺も…ザンザスの声が聞きたかったよ」
なんて。
今だけは携帯電話越しで本当に良かったと思う。だってこんな真っ赤な顔は恥ずかしくて見せられそうにないから。