寂しくなんかないっ
山本は部活のミーティングがあるらしくて部室に行ってしまって、今日は獄寺くんと二人で屋上にいる。
風もそんなになくて今日の屋上はすごく気持ちいい。
「十代目、どうかしたんですか?」
「え、なにが?」
「いえ…今日は随分携帯を気にいていらっしゃるので。連絡が来る予定でもあるんですか?」
驚いた。自分でも全然気付いてなくて。
休み時間の度に鞄から携帯電話を取り出しては画面を見つめていた。でも着信も受信も無くてがっかりした。
「ううん。そんなんじゃ、ないよ」
横に置いておいた携帯電話をチラと見る。
昼休みに入ってすぐマナーモードを解除してメロディが流れるようにしてある。けれど鳴らない。
「何でもないんだ」
視線を獄寺くんに戻して笑ってみせる。獄寺くんはいまいち納得してない顔をしていたけど、ちょうど良く予鈴が鳴ったから急いで片付けて教室に戻った。
家に帰ってからも俺はぎゅっと握りしめていた。
机の上には宿題の問題集とオレンジジュース。問題集は全く進んでいない。問題が頭に入ってきていない。
別に連絡をくれる約束があるわけでもないし、まめにくれるわけでもない。でも自分から連絡する勇気も無いからこうして携帯電話を握りしめて次の行動に出られないでいる。
「はぁーあ……ってうわ!!」
鈍い音がして銃弾が壁にめり込んだ。
「ちょ、何してんの!?危ないだろリボーン!!」
「うぜぇ。うじうじしてんなダメツナが」
ベッドの上に鎮座していた黒衣の家庭教師がまだ愛銃をこちらに向けていた。怖い、怖すぎる。こいつなら本当に撃つ。
まぁさすがにこの距離で外してくれたってことは本気で当てるつもりはないみたいだけど。
「そんなに掛けたいなら電話でもメールでもさっさとしろ。」
ここ最近の俺を見ていればこいつには全部お見通し。俺がザンザスに連絡を取りたくて、でも勇気がなくてこうして悶々していることなんて。
でもザンザスは俺と違って忙しいし、俺が連絡したらすぐ日本に来てくれる。それが彼の周りの人間たちにどれほど迷惑を掛けているのかも少しは分かっているつもりだし、そんな我が儘はきっと自分勝手すぎる。
携帯電話に視線を落とすと、突然それが手の中から奪われた。リボーンが音も無く近づいてきてむしり取ったのだ。
「こらっ――」
すぐ奪い返したがそれは既に通話モードにされていて、画面にはしっかりと『XANXUS』と表示されていた。
恨みがましい目でリボーンを睨みつけるが相手はどこ吹く風で部屋を出て行った。
暫くして向こうが電話に出る。聞こえるのはすごく聞きたかった声。
「ザ、ザンザス…元気?」
『あぁ、どうした?』
声なんか聞いてしまったら会いたくなってしまうから我慢したのに、心地よい低音が心にまで滲み入る。
あぁ、強がったのがバカみたいに安心して。現金にも声は弾んだ。