朝日が昇る
早朝、突然携帯から着メロが流れた。
まだ起きるには早い時間で、夢の中にいた俺は寝ぼけながら手探りで携帯を探した。
「…もしもし?」
寝起きで声が掠れた。
『あ、ツナ?』
電話の主は山本だった。
俺は余っている左手で目を擦りつつ欠伸を噛み殺した。
「おはよー。どうしたの、こんな朝早く」
『うん…』
珍しく歯切れの悪い山本。それに、心なしか声も沈んで聞こえる。
「なにかあったの?山も――」
『ツナって、ザンザスのこと好きなんだよな?』
「…………え?」
ぴしり、と音を立てて思考が止まる。山本が発した言葉の意味が理解出来なくて、自分でも驚くくらいマヌケな声が出た。
『やっぱりそーなのな』
「え、あ、そのっ」
山本の言葉は余りにも唐突でしかもかなり核心を突いてきたから、心臓はバクバク早鐘を打つし顔ももの凄く熱くなる。寝ていられなくて壁に背中を預けてベッドに座った。
「あの山も――」
『俺、スクアーロに告白したのな』
「………え?」
山本の口からまたも唐突に驚きの言葉が発せられて、俺はまた思考が止まる。
山本はいつも予想の範疇外をいくから慣れているつもりだったけど、やっぱり俺の頭ではついていけなかった。
『で、あっさり振られた』
いつもの山本とは違う沈んだ声。
俺は何と声を掛けていいのか分からず押し黙った。
『でもな、ツナもちゃんと告白した方がいいと思う』
「え、」
『俺、スクアーロのことずっと好きで。でもやっぱさ、俺もあいつも男じゃん。だから結構悩んでたのな』
快活な山本らしくない歯切れの悪い話し方だけれど、それでも声はしっかりしていて。なんだか変だけれど凄く説得力のある声だ。
『弟みたいな存在で大事な弟子で、そんな風に見れないって言われた。はっきり振られた』
「…うん。」
『男だからとは言わなかった。男だから気持ち悪いとか、男だからそういう風に見れないとか言わなかったんだ』
あぁそうか。やっと分かった。
『言わないと伝わらないし、言わないと気持ちの整理もつかないだろ』
こんなに狼狽していつもの快活な雰囲気を保てなくなっているのに、彼は自分を心配してくれている。
この親友は、こんなときまで自分のことよりも親友の心配をするのだ。
『ザンザスもさ、絶対おんなじだと思うんだ。男だからって理由で拒絶なんてしない。だって、スクアーロがあんなに心酔してる奴だからさ』
こんなに優しい。山本は本当に優しい。
すごく嬉しくて、心があったかくなって、思わず笑った。
『な、ツナだってそう思うだろ』
「ふふふ、でも、結局スクアーロの話になってるよ山本」
『え、』
「でも、嬉しい。うん、俺もちゃんと告白するよ」
『そっか。』
「うん」
『……じゃあ、また後でな』
またあとで、そう言って電話を切った。
あと数時間で夜も明けて、いつもどうり獄寺くんと山本と学校へ向かうんだろう。その時にはきっと山本はいつもどうりに快活に笑っているんだろう。
俺はもう一度ベッドに潜り込んで目を瞑った。