ワガママな彼
面の後ろからさらさらの銀糸が揺れている。元より大きい声を張り上げて床を踏む音が響く。
「う"ぉ"ぉ"ぉ"い"!何サボってやがんだぁ!!」
俺が剣道の稽古をしている道場に突然やってきたと思ったら、勝手に俺の家に泊まり込んでもう一週間以上。確かに以前から剣道に興味があるようではあったが、それにしても彼は俺が仕事に出ている間も俺の親父を捕まえて稽古に励んでいるらしい。親父が毎日楽しそうだからまぁいいけれども。
「今帰って来たんだって」
「テメェも今すぐ着替えろぉ!!」
面を外して顔の汗を面下で拭いながらこちらに声を張り上げている。真っ白の胴着に身を包んで、そこから覗く白い肌ときらきら光る長い髪。いつものタイトで真っ黒な隊服も似合うけれどこういうのも似合うなと思った。
「俺疲れてるんだけどー」
「付き合いやがれぇ!」
ハイハイ、と道場を抜けて部屋へ稽古着を取りにいく。最近仕事が忙しくてめっきり稽古出来てないから仕舞いっぱなしだ。
スーツを脱いで胴着に着替えると気が引き締まる。仕事とはまた違った高陽感。
防具や竹刀は道場にあるから大事な愛刀を仕舞って道場に戻った。
スクアーロは防具を外して素振りをしていた。俺も軽い準備運動と素振りをして体を温める。
「やっと来やがったかぁ」
「なぁ、せっかくだし一勝負しようぜ」
「いいぜぇ。俺が負けるわけがねぇ」
「それはどうかな」
剣技の師匠であるスクアーロだが、剣道歴は俺の方が長い。
「明日の夕飯賭けようぜ」
「望むところだぁ」
さて、久々に本気出すかな。