豈図らんや
「あれロヴィ、今日もシエスタしとんのー?」
声のすぐ後、背中に重さを感じる。柔らかな感触と、それから体重が掛りちょうど肋骨辺りに机が食い込む痛み。
「なぁなぁロヴィ、親分が来たでー」
左耳に息が掛る。俺の背中に完全に体重を掛けていやがる。苦しい。
「うるせー、眠いんだよ」
「せっかく来たんやから、相手してやー」
体勢はそのままに拒絶の声を上げれば、こいつは顔をぐりぐり肩に押しつけてくる。それと同時に背中に無駄にデカイ乳が当たり、正直俺は耳が赤くなっていないか気が気ではない。
いつもそうなのだ。こいつは幼馴染だからか俺のことをいつまでも子分扱い。お互い高校生にもなって過剰なスキンシップを当たり前のようにしてきやがる。
確かに幼い頃は苛められてばかりいた俺を男勝りなアントーニョが助けてくれていたが、今は高校生だ。苛められることもなくなったし、こいつに助けてもらうようなこともない。
「なぁなぁロヴィー、起きたってー」
仕方なく背中の重みを跳ね返して起きてやると、アントーニョは眩しすぎるほどの笑顔で喜んだ。
褐色に焼けた肌、少し癖のあるはねた短い黒に近いこげ茶の髪。暑いのか上に羽織っていただろうカーディガンを腰に巻き、白いワイシャツからは下着が透けて見え、スカートは股上ギリギリに短い。
「…お前、またそんな恰好で……」
「ん?」
きょとんと目を丸くして首を傾げる様がとんでもなく可愛くて凶悪だなんて本人には言ってやらない。どうせ言ったって俺の気持ちなんて伝わりはしないだろうけど…この鈍感女め。
「あ、せや!ちゃうねん。ウチな、今日ロヴィの家行ってもええ?」
「はぁ?」
「ロヴィこの間新しいゲーム買うたって言うてたやん。明日土曜やろ?泊まってけるなーと思て」
そう。こいつには俺はいつまで経っても「守らなくてはならない子分」だ。「男」ではない。だからこんな恰好でデカイ胸を押しつけてきたり、簡単に泊まりにきたいなんてことも平気で言ってくる。少しの危機感もない。
こんなにも意識している俺がバカみたいじゃねぇか。
「なぁ、ええ?それとも予定とかある?」
少し意識を飛ばしていて焦点の合っていない俺を不思議に思ったのか、しゃがんで俺の顔を覗きこんでくる。
いつ見ても美しいビリヤードグリーンの瞳が自分を映してるのだと、こんなにも近くにあると思うだけで心臓が撥ねた。
「あのなぁ、お前もう少し危機感とかねぇのかよ。俺だってもう高校生だぞ?」
どうせ意味なんて通じないだろうけど少しの期待を込めて言ってみると、アントーニョはパチパチと瞬きをした。
ほら、やっぱり通じない。まぁそうだよなそれがこいつの良いところでもあるし、
「ロヴィやったらええよ」
「――は?」
「せやから、ロヴィやったら、ウチええよ?」
思考回路が完全にショートして、こんなにも近くで返された言葉が一瞬理解出来なくなった。いや、今も理解出来ない。何がいいって…?
「ウチちっさい時からロヴィのこと好きやもん。」
にっこりと微笑まれた顔と言葉に、顔が・体中が熱くなるのが分かった。